4月18日の東京株式市場で日経平均は大幅下落し、500円を超す下げとなった。この株価下落の要因としては大きく3つ存在した。そのひとつは米国のルー財務長官が15日のG20財務相・中央銀行総裁会議後の記者会見で、為替市場の動きは秩序的だと述べ、日本政府が円安誘導策に動くことをけん制したことによる円高である。
G20の開幕に先立って、麻生太郎財務相は米国のルー財務長官と会談して為替政策を協議し、通貨安競争や過度な相場変動の回避を原則とするG20合意を「すべての国が尊重することが重要」との考えで一致したとの報道があった。しかし、これはそれぞれ都合良い解釈によるものではないかと私はみていた。
ただし、IMFのラガルド専務理事が14日の記者会見で、足元で進む円高について「日本の市場を注視している」と述べた事が気になっていた。急激な為替変動があった場合には「為替介入は正当化される」と指摘しており、日本の為替介入について同意を示すような発言があったのにむしろ違和感を覚えていた。
IMFの対日審査責任者を務めるリュック・エフェラールト氏が「為替レートが極めて無秩序な動きを示さない限り、現時点での日本の介入には正当な理由はない」と発言していたこともあるが、少なくとも米国が日本の為替介入を認めるようなことは、これまでの経緯からは考えられないと見ていたからである。現実に米国はルー長官が自ら念を押すような発言をしてきたと言える。これにより外為市場でドル円は107円台をつけてきた。
そして、もうひとつ注目されていたのが17日の産油国会合で増産凍結合意できずとの報である。イランが凍結に応じず、サウジアラビアがイラン抜きでの増産凍結に反対し、原油価格押し上げに向けた増産凍結の見送りが決定された。
市場では増産凍結にはなんとか合意に持ち込めるのではとの希望的観測が強まっていた。原油先物も40ドル台で推移し、市場も原油価格の動向に一喜一憂することがなくなりつつあった。ところが、増産凍結合意ができなかったことにより、時間外取引で原油先物は大幅下落となった。この円高と原油安によって、東京市場ではリスク回避の動きを強めることとなった。
これに加わったのが熊本地震による影響で、部品供給が滞っているトヨタが18~23日に全国の完成車工場の生産を段階的に停止すると発表したことである。トヨタだけでなく、ルネサスやソニーも熊本などの工場停止が相次いでいるが、あらためてサプライチェーンの問題が浮上し、これも株式市場などにインパクトを与えたといえる。
東京株式市場の大幅な下落や原油安を受けて18日の欧米の株式市場も売りが先行した。18日の原油先物も下落したが、その後下げ幅を縮小させた。欧米の株式市場は結局買い戻されたが、これは原油価格の下げ幅縮小によるというよりは、以前に比べて原油価格に対する市場の感応度が低下したという見方の方が良いのではなかろうか。18日の東京株式市場は円高が進行したが、つまりドルやユーロは円に対しては下落しており、これは欧米の株式市場では売り要因とはならない。また、18日の東京株式市場はやはり熊本地震の影響が強く意識されていた側面があり、そこに円高と原油安が加わっての大幅下落となったものとみられる。
しかし、18日の欧米の株式市場の上昇を受けて、19日の東京株式市場でもやや不安感が払拭された。ショートカバーも入り、ほぼ前日の下げ分を取り戻す格好となっている。東京株式市場が大きく値を戻したこともあり、外為市場でドル円はあっさりと109円台に戻している。これはいまだに株とドル円はセットで動いているためとみられる。どうやら欧米の株式市場が大きく崩れない限りは東京株式市場もしっかりした地合は継続しそうな感じである。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年4月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。