世界経済は本当に不安を抱えているのか?

メディアには世界経済の不安を煽る記事が踊っています。「リスクオフ」という言葉が一般人に浸透しつつありますが、このリスクとは機関車「世界経済号」であり、このまま乗っていると脱線するかもしれないから駅で降りる、という意味であります。

悲観論者、ニューヨーク大学のノリエリ ルービニ氏は7つのリスクとして、中国経済、新興市場、米国、中東情勢、原油価格、銀行、欧州危機を上げています。なるほど、どれも不安だ、と思えば不安ですが、人間の英知をもって乗り越えられないのか、といえばそんなこともない気がしないでしょうか?

2008年に襲ったリーマンショック。あれは「信用創造の歪み」がひと時に表面化し、短期間にその対応を迫られた点で実に厳しい経済試練だった思います。が、今思い返せば一気に膿を出し切り、失敗したところはやり直しのチャンスを貰えたからこそ、アメリカは復活しました。日本もバブル崩壊に於いては同程度のショックでありました。が、政府も企業も小手先のパッチワークを繰り返したことで10年以上に渡りその影響が残ったのです。往生際が悪かった、ともいえます。

リーマンショック程の波乱が起きれば来年の消費税引き上げを再延期する理由になるので日本のメディアはむしろ不安を煽るかもしれません。一週間ほど前の日経のトップには「もたつく景気、内憂外患、消費息切れ、中国調整なお」というタイトルが躍っています。一般に日本人は悲観論が大好きでアメリカの「ポジティブシンキング」を主張すると「アホかいな」と言われるのがオチとなっております。

私は世界経済の不安とは何をもって尺度とするのか、その原点に立ち返るべきではないかと思います。今や新興国の大都市にも高層ビルが林立し、これが新興国なのか、と思わせるほど活況であったりします。その中で経済成長率でかつての高い数字が維持できず、不安を増幅させています。ルービニ教授の7つの不安の通りですが、この不安のいくつかはあと1年ぐらいで解消するとみています。理由はドル安です。これにより原油価格も資源価格もある程度回復し、新興国の為替レートは改善するでしょう。それに伴い新興国経済も回復貴するとみています。要は経済循環の波の中で2015年がボトムで今、改善の方向に向かっていると考えた方が私にはすっきりします。

世界経済のシステムは何度か起きた経済危機を通じて学んでいます。その為、耐えうる力が出来ています。例えば1997年に今の状況が起きていたらアジア危機になっていたでしょう。2010年頃の欧州危機もギリシャ問題を通じて学んだものがあり、システムが強化されています。例えて言うなら皆さんが使っているパソコンのウィルスソフトと同じでどんどん進化しています。一方、敵も負けていません。例えばマイナス金利の功罪についてはいまだに結論が出ていません。が、今のところ、私が感じる限り、マイナス金利はマイナス効果の方が大きい気がします。それは銀行経営をかなり厳しくすることになり、経済の血液であるマネーのクオリティに悪玉菌が入り込みやすくなるから、と考えています。

ルービニ教授の不安材料の一つ、「米国」ですが、私には不安というよりアメリカが変わったことを素直に受け止めるべきだと思っています。あの国はかつてのアメリカではなく、新たなる民主主義、それはどちらかというと世界の圧倒的傾向である中道左派に寄ってきています。このところサンダース候補がクリントン候補を圧倒していますが、これは人々がより左に共感を持ち始めた起こりうるベクトルではないでしょうか?

「世界経済の不安」とは我々が知っているかつての尺度をもとに良い、悪いを測ろうとしています。私が2%のインフレ率って何処から出てきたのだろう、と率直な疑問があるのもここに原点があります。経済成長の仕方にはいろいろあります。GDPの尺度で「大きくなることはいいことだ」という発想もあるでしょう。一方でパナソニックやトヨタがむやみな売り上げ追及をせず、品質や利益率を重視する経営をしています。となれば、日本の経済成長は高齢化が進む社会に於いて国民がより幸福にそしてクオリティオブライフを高めていくこともありではないでしょうか?

最近の社会問題の数々をみていると我々のライフそのものが世界経済よりももっと歪んている気がしませんか?

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 4月19日付より