ビジネスは産みだすもの

日本電産の永守重信氏は私の好きな日本を代表する経営者の一人であります。氏が日経ビジネスの「賢人の警鐘」で「財務戦略がないからマイナス金利を生かせない。資金を使い切る仕組みを。」と寄稿しています。思わず、わが身を振り返ってしまいました。これは言葉にすると簡単ですが、実際にやれと言われたらなかなかできるものではありません。

私はこのブログで日本は成熟社会、だから消費力は衰えていく、と述べてきましたが、ガーンと頭を殴られたような気がしております。そしてその寄稿の一番最後にこのようなくだりがあります。「投資先がない、金利が下がっても使い道がないなどということは経営者は絶対に言ってはならないことだろう」と。これで二発目のパンチであります。

世の中、様々なビジネスの背景や状況があります。安定ビジネス、成長ビジネス、インキュベーション(新規起業)、多大なる借入金で自転車操業のビジネス、無借金で左うちわの会社…。それらを一括りでこれが正しいという答えはなかなか出てきません。

例えば投資をする人は投資をして攻めたてる時と守りに入るときがあり、まるで潮の満ち引きのようなものですからいざ、そのチャンスが来る時に備えて資金を準備しておくことは重要な戦略でしょう。製造業の場合には新規工場建設や工場内の設備投資は常にあり、キャッシュフローとのにらめっこかもしれません。ホテルオーナーは原則3年目と7年目の改装で多額のキャピタル投資をしなければなりません。ですが、工場にしてもホテルにしても今年すべき投資を来年に延ばしても目に見える差がないこともしばしばです。そうなると日本が経験した失われた○年の時の様に一流ブランドの会社の製品やサービスのはずなのに陳腐化した機械や薄汚れたカーペットのホテル、であったりするわけです。

永守氏の場合、更に突っ込んでいるのは自社の強みとする「モーター」事業を自身が起業した当時から「廃れないビジネス」として捉えているところに先見の明があったのでしょう。家庭用だけ見ても冷蔵庫、洗濯機から掃除機、換気扇、デスクトップのパソコンにもモーターが必須です。勿論、自動車はモーターです。そのパソコン用のモーターの需要が落ちてきてどうするのかと思いきや、今にドローンの時代が来る、としてそれに備える準備を着々と進めているというのです。

アマゾンが実験で進めているドローンによる宅配がいよいよ本格化すれば世界でのドローンの需要は想像を絶する数になるでしょう。そしてそこには必ずモーターが存在するのです。

永守氏の場合、ビジネスの創造力と10年、20年先を見る先見性が極めて優れている経営者だと思います。そしてこの経営者がなぜ、他の経営者と一線を画するか、といえば会長兼社長でも現場の第一線で実務家として辣腕をふるえることであります。言い換えれば、「課長兼経営者」であるのです。

私はしがないマイクロ企業の社長ですが、今だかつて社長然としたことは一度もありません。個室に入ったこともなく、従業員が多かった時代でも部屋の真ん中で各部門の声を聞きながら一緒になって考え、実務をしてきました。世の中、課長ほど重要なポジションはなく、下からのボイスと上からの方針のアンコになりながらいかにうまくことを運ぶことが出来るかに立ち向かう「操縦桿を握るパイロット」なのであります。

永守氏がいつまでもシャープなのはその前線に立ち続けているからでありましょう。それは膨大なるインプットの中で元気がない部門、伸びている部門をきっちり把握し、週末を思考の時間に宛てているからでありましょうか。永守氏は三度の飯よりビジネスが好きなのです。

需要は造るものである、そしてそこに新たなるキャッシュを投入し、新たなる産業を掘り起こす、そうなれば世の中の新陳代謝が起き、古いスタイルに縋りつく者はドンドン振り落とされる、ということでもありましょう。

こう考えると経営者の賞味期限も出てくるのかもしれません。何十年もトップに君臨するのは組織の活性化が進まず、ビジネス展開が一方向になりかねません。永守氏の様に極めて優秀な経営者ばかりでしたらよいのですが、世の中、そういうわけにはいきません。更に多くの企業は海外の無限に広がる人材と企業の嵐の中で戦わねばならないのです。

私も日経ビジネスを20年以上、毎週欠かさずに広告以外は完読していますが、このような記事を通じて刺激をもらうと購読料も購読に要した時間も全く苦にならないと思います。今回も下手な講演会に行くよりうんと為になる記事でありました。

私も身を引き締めて需要を創造してまいります。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 4月26日付より