避難先が耐震を備えてなかったら… 耐震率ランキング

高橋 亮平

避難所となる学校の耐震化率 熊本県は94%

4月14日21時頃、熊本県でマグニチュード6.5の地震が発生し、同県益城町では震度7が観測された。継続して大きな余震が頻発するなか、4月16日1時頃にはマグニチュード7.3、最大震度7の本震が発生するなど、一連の「熊本地震」によって、大きな被害が出ている。
まず、被災された地域の皆さまに心よりお見舞い申し上げるとともに、被災地の皆さまの一日も早い復興を心よりお祈り申し上げたい。
すでに全国の各自治体は物的・人的支援を開始し、様々な対応が始まっている。
千葉市役所から職員が派遣された日、筆者は偶然にも千葉市役所で仕事をしており、あの3.11当日、松戸市の部長職として避難所開設やその後の福島からの避難者受け入れ、輪番停電、放射能対策、給水対応など経験したことを思い出す。
熊本においても、現場に救援物資が届かないなど、まだ課題は山積のようだが、まずは被災地支援という前提に立ちながらも、今回の震災をキッカケにあらためて考えなければならない震災対策について、とくに公共施設の「耐震化率」に注目して考えてみたいと思う。
今回の熊本地震によって熊本県内で設置されている避難所は、約800ヵ所あると言われている。そのうち約300ヵ所が小中高の学校施設である。
じつは熊本県は、この学校施設の耐震化率が93.67%(10位)と極めて高かった。このことは、不幸中の幸いと言えるのではないか。
熊本県の場合、耐震が必要となる可能性の高い1981年以前の、いわゆる「旧耐震基準」による建物の耐震化率でも88.47%(10位)と極めて高い。
しかし、そんな熊本にすら耐震性がない、もしくは耐震診断未実施の学校施設が202棟残っていた。

 

避難地の学校が耐震補強できていないこともある

一般的な感覚として、「災害が起きたら学校に避難」と思っている人は多いのではないだろうか。しかし実際には、その学校自体が耐震補強できていない・・・なんてことがある。
私が市川市議会議員だった2007年、9月議会で公共施設の耐震化について質問した際に「避難所に指定されているところでも104棟は耐震補強がされてない」と指摘した。だが、当時、市民や議員はもちろん、役所の中でも、このことは担当以外ほとんど知られていなかった。
当時はまだ公共施設の耐震化は大きな問題になっておらず、市川市でも、「民間施設も含めて平成27年度までに90%」という国の目標に準じた抽象的な目標しかなく、公共施設の耐震補強を終えるのは平成35年度となっていた。
私は3議会連続でこの公共施設の耐震化の質問して、2008年の2月議会で、市川市の公共施設の耐震補強を「平成25年度までに100%終える」という方針変更に導いた。
市川市の公共施設の耐震化は、当初35年度までに行う予定を市民、とくに小中学生の子どもたちの命の問題だと迫り、27年度まで短縮、そしてさらに25年度まで短縮したというものだった。

南関東直下でM6.7~7.2の地震が発生する確率は、当時、10年以内が30%、30年以内が70%と言われており、大規模地震は、すでに「いつ起きるか」という時期の問題になっていた。
あれから10年が経とうとしている。
その後、文科省も2008年6月に学校教育施設の耐震促進を呼びかけたが、こうした取り組みは、まさに全国に先立った問題提起であり、また当時の市長の英断でもあった。
当時の市川市長は斬新な政策にも積極的に取り組み、市川市は「IT先進自治体」などとも言われた。
それが先日の報道では「市職員が勤務中に不適切サイト閲覧で7人を懲戒処分。減給となった2人はアダルトサイトを閲覧していた。ほかの5人は映画、グルメ、スポーツ中継などで、平均的な職員のインターネット利用量の約10倍・・・」である。
「政治家なんて誰がやっても・・・」などと言われることがよくあるが、「人が変わればここまで変わるのか・・・」である。

 

地震の後に「耐震化を!」はバカでも言える

東日本大震災が起こった際、全国の地方議会でどの議員もが口を揃えて公共施設の耐震化を叫んでいた。
もちろん、こうした大震災が起きた時こそ、次の震災に備えた対応を考えることが重要であり、また、こうしたタイミングであれば住民の共感を呼びやすいということもあるのかもしれない。しかし裏を返せば、住民の共感を呼びやすいことを、共感を呼ぶタイミングで言うことだけが議員の仕事なのだろうか・・・。
住民ニーズに耳を傾け、住民の声を議会を通じて行政に届ける。確かにこうしたことも議会の大きな役割ではあるだろう。ただ、議員は税金から報酬をもらって働く、いわば“政策分野のプロ”である。そう考えると、住民の誰もが言うようになってからしか提案ができないというのは、いささか寂しいものがないだろうか。
私は東北から九州までいくつかの自治体でコンサルとして幹部研修や職員研修、講演などを行わせてもらっているが、その際「政策マーケティング」や「潜在ニーズ」の話をすることがある。
メディアで取り上げられた国民の声や、一部の声の大きな人たちの声に迎合し、その声が求めるままに政策をつくり、方針を立てることが、「ポピュリズム政治」として批判されることがある。ただ、こうしたことが必ずしも多くの国民や市民の期待に応えられているかといえば、そうでもないこともまた結構な頻度である。
一方で、こんな話もする。
今、多くの若者が「iPhone」をはじめとした携帯端末でMP3を使って音楽を聴く。ただ、この商品開発は、「MP3を用いて、もっと多くの曲が入って小さなウォークマンのようなものが欲しい」という消費者の声を受けて作ったものだっただろうか。決して直接的な声があったわけではないはずだ。
一方で、声にならない「潜在ニーズ」がそこにあることを見出し、商品を開発して提示した。すると多くの消費者はむしろその商品に「これだよ!俺たちが欲しかったのは!」ということになったのではないか。
政治家にも同じことを期待したい。
これまでの政治家による政策形成は、どこか「自分が思っていることが正しいんだ」という根拠のない思い込みから行われていたり、ようやく国民や市民のニーズを反映することが大事だとなったら一転、そのまま表層的な声をニーズと捉えてトレースしてはいないだろうか。
とくに、地方行政や地方議会の方々に言いたい。
昨今は英国などを中心にアウトカム(政策目的)を達成するための効果的な施策を科学的根拠に基づいて意思決定する「エビデンスに基づく政策(Evidence-Based Policy)」が行われ始めている。
こうした根拠のある政策形成と、同時に、近視眼的な場当たり対応ではなく、長期的な課題発見と戦略的な政策形成を意識してもらいたい。その主役にはむしろ、行政執行に携わる必要のない議員にこそなってもらう必要があるのではないだろうか。
<資料>都道府県別学校施設(小中高)耐震化率ランキング

 

 

高橋亮平(たかはし・りょうへい)
中央大学特任准教授、NPO法人Rights代表理事、一般社団法人 生徒会活動支援協会 理事長、千葉市こども若者参画・生徒会活性化アドバイザーなども務める。
1976年生まれ。明治大学理工学部卒。26歳で市川市議、34歳で全国最年少自治体部長職として松戸市政策担当官・審議監を務めたほか、全国若手市議会議員の会会長、東京財団研究員等を経て現職。世代間格差問題の是正と持続可能な社会システムへの転換を求め「ワカモノ・マニフェスト」を発表、田原総一朗氏を会長に政策監視NPOであるNPO法人「万年野党」を創設、事務局長を担い「国会議員三ツ星評価」などを発行。AERA「日本を立て直す100人」、米国務省から次世代のリーダーとしてIVプログラムなどに選ばれる。 テレビ朝日「朝まで生テレビ!」、BSフジ「プライムニュース」等、メディアにも出演。著書に『世代間格差ってなんだ』、『20歳からの社会科』、『18歳が政治を変える!』他。株式会社政策工房客員研究員、明治大学世代間政策研究所客員研究員も務める。
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