冤罪プロセスの証明

加藤 完司

3月26日に「栃木小1女児殺害事件:自白の構造」という記事を書いた後、証拠は自白調書だけという裁判において無期懲役の判決が下った。奇しくも、自白調書だけが証拠という同様の事件において、無期懲役の判決に対し再審が開かれ、無罪が言い渡される見通しというニュースがあった。

日本経済新聞(4月28日夕刊)によると経緯は以下の通り。

火災は95年7月に発生。大阪府警は母親の青木さんと当時内縁の夫だった朴さんが保険金目的で自宅に火をつけ、女児を殺害したとして殺人の疑いなどで逮捕。朴さんの自白を基に06年、最高裁で無期懲役が確定したが、大阪地裁は12年、再審開始を決定。昨年10月の大阪高裁決定が検察側の即時抗告を棄却し、2人の釈放を認めた。

 

今日28日、大阪地裁(西野吾一裁判長)において、検察側は冒頭陳述で「全ての証拠を検討した結果、有罪立証しないことにした」と表明。検察側の冒頭陳述に続き、弁護側は確定判決が有罪の根拠とした朴さんの自白調書などは「違法な取り調べによって作成された」として証拠から排除するよう請求。朴さんの自白内容を検証した再現実験の映像が法廷で上映された。朴さんは「身に覚えがなく、無実です」と改めて無罪を主張した。

 

青木さんの再審初公判は来月2日に開かれる予定。ともに検察側は有罪立証せず即日結審し、8月上旬の判決公判で逮捕から約21年ぶりに2人に無罪が言い渡される見通し。戦後発生し、死刑か無期懲役が確定した事件で再審公判が開かれたのは2012年の東京電力女性社員殺害事件に続き9件目。

さりげなく簡潔に書かれているが、内容を整理すると信じがたいことが書いてある。

1) 被害者の11歳の娘の母親が殺人罪で逮捕された
2) 証拠は自白調書が主であり、検察はそれが検察側の捏造であることを認めた
3) 被告は上告したものの最高裁で無期懲役が確定
4) 大阪地裁が2012年に再審開始を決定
5) 2015年10月、大阪高裁が検察側の即時抗告を棄却

検察の「全ての証拠を検討した結果、有罪立証しないことにした」という表明は、「自白調書は捏造だった」事実を言い換えたにすぎず、無実の人の自由を21年間奪ったことへの謝罪や反省の感情は全く見られない。本件では上記4)の大阪地裁の裁判長がいたから助かったが、見過ごされていれば娘を失くした母親が一生刑務所で暮らさねばならないところだった。

罪が晴れたとはいえ31歳から52歳までの21年間は酷すぎる。

記者会見のテレビ放送では、取り調べの虐待の模様が語られていた。それにもかかわらず、違法な取り調べが故意であっても過失であっても検察官も警察官も全く罪に問われないのが日本の刑事訴訟法。わずかな賠償金が支払われるだけだ。何かおかしい気がするし、責任も罰もなければ同じ悲劇が繰り返される。取り調べ過程の録画というが、単に透明性の演出の仕掛けに過ぎない臭いもある。

先の栃木小1女児殺害事件も自白調書だけが証拠、という裁判。事件や裁判の構造が全く同じだけに、「うそにうそを重ね、悔い改める姿はない」として無期懲役を求刑した検察官とそれに同意した宇都宮地裁の松原里美裁判長に本件の再審無罪の判決に対するコメントを是非お聞きしてみたい。本件においては8月に無罪が確定した後、お二人が取り調べた検察官や警察官、さらに裁判長を民事訴訟で訴えることはできないのだろうか?

死刑もしくは無期懲役だったから冤罪の新聞記事になったが、記事にならない事件や裁判は多数あるのだろう。