“英国のSEALDs”は何を目指すのか(下)

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組織には9つの原則がある。

1つは「クリエティブ」。社会に変化を起こすためには、創造性や芸術性が必要と考える。

2つ目は「コミュニティ」。変化はコミュニティから起きる。

3つ目が「民主的」。現状のようにロンドンが金融サービスや大企業の利によって支配されるのではなく、もっと民主的に運営されるよう要求する。

4つ目が「平等性」。人種、性、階級、宗教、年齢、障害による差別に反対し、すべての人を平等に扱う。

5つ目が「インクルーシブ」。全員が共同で行動を起こす。

6つ目が「オープンマインド」。参加者のアイデアを積極的に取り入れる。

7つ目が「ラジカル」。革新的な動きであるからこそ、変化を促すことができる。

8つ目は「自治」。人の個性、特技を生かす。

そして、9つ目が「反ヒエラレルキー」。参加者全員がそれぞれの役割、責任を持つ。

マニフェストで望むのは住宅と賃金問題

Take Back the Cityには、「市民のマニフェスト」を作るためにどのような要望が寄せられているのだろうか。

最も頻繁に挙げられたのは、「ソーシャルハウジングあるいは賃貸料の廉価な住宅の建設」と「生活賃金の導入」だ。

ソーシャルハウジングとは地元の自治体や非営利組織が提供する、低所得家庭向けの廉価な賃貸料の住宅を指す。

好景気のロンドンには人もカネも入ってくる。政府統計によれば、人口は第2次世界大戦前のレベルに達し、2015年で約860万人。この1年で約5万2000戸が増えた一方で、新規住宅建設は約2万戸のみ。慢性的な住宅不足の現状がある。

英国全体で住宅価格は上昇しているが、特に激しいのがロンドンだ。過去7年間でロンドンの住宅価格は平均で44%増えている。

調査会社「ホームハブ」によれば、ロンドンの住宅価格は全国平均の3倍だ(インディペンデント紙、2015年12月9日付)。

高騰の理由の1つは、外国人が投資のために一等地の住宅を買うケースが増えているためだ。

別の調査会社「シビタス」によると、2012年、ロンドンの中心街にある物件の85%が海外からの資金で買われていた。その3分の2は投資用で、実際にはその物件に住んでいなかった。

生活賃金とは生活水準を維持するために必要な最低限の時間給のこと。最低賃金の支払いは法律上、事業者の義務となるが、生活賃金は義務化されていない。

現在の最低賃金は21歳以上で6.70・ポンド(約1040円)。生活賃金は全国では8.25ポンドだが、ロンドンでは住宅費の高騰など生活費がほかの都市よりはかかるという前提で、9.40ポンドに上昇する。もしロンドンの雇用主が最低賃金の6.70ポンドかこれに若干足しただけの金額を払えば、ロンドンで働く人にとっては、かなり厳しい生活となる。

運動の共同創立者ルイス氏が「ロンドンから出ざるを得なくなった」と話していたが、まさにそのような状況になっている。

5日のロンドン市長選・市議選に向けて、マニフェストづくりに向かうTake Back the Cityの動きを、今後も追っていきたい。(連載2回目はメルマガ「メディアの現場」最新号に掲載中です。)


編集部より;この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2016年5月1日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。