皆さん去年9月のインドネシアの新幹線受注騒動を覚えていますか?私、先日旅行で、その現場、ジャカルタ−バンドン約150キロの特急列車に乗ってまいりました。所要時間は約3時間。料金は1等車両で片道日本円約3千円。乗客はざっと全部で500人くらい。こんな列車が一日に3往復しています。
バンドンは標高700メートルにある人口240万人の文化都市です。ジャカルタの人口は960万人。
その感想。「こんなところに新幹線作ったら絶対採算とれない。作らなくてよかった」。だって、乗客が少ない。単線の鉄路の横には、片道2車線の立派な高速道路が走っていて、トラック・バス・乗用車がビュンビュン走っています。高速バスで同じコースだと2時間で500円。鉄道より1時間早いし、料金は6分の1。よほどの物好きでないと乗りません。さらに、バンドンとジャカルタの市街地の渋滞。これはもう最悪で、いくら電車が速くても、出発地からジャカルタの駅、バンドンの駅から目的地に何時間もかかる。乗り遅れたらいけないから、余裕をみて駅に行く必要がある。日本とは大違いです。
当時の記事を読むと「巨額の建設費がネックでもあった。運賃収入だけでは膨大な初期費用を負担しきれない。そのため、日本側は、民間だけで実施するのは困難と判断。インドネシア政府にも一定の負担を求める提案をした。総事業費約6000億円の75%を金利0.1%の円借款で賄うというものだ。金利負担が少なく、インドネシア政府にとって受け入れやすい案のはずだった。」
いくら低利でもインドネシア政府にしてみれば借金は借金です。中国が「純民間投資でやる。政府には一切負担かけない。」という提案を出せば、それはそっちを取りますよ。ダメで元々ですから。
ですので、「新幹線」といった分かりやすハードインフラは、「箱もの・不良債権好きの中国」に任せて、日本はもっと優れたソフトを輸出すればいいと私は思います。実際、JR東日本は既にタイで始められています。実は、日本の鉄道はIT技術の固まりなんです。恐るべし、JR、東京メトロ、私鉄。
運転調整システム
最近都市部でJRや地下鉄に乗っていると、「後続の列車が遅れているため、当駅で運転間隔調整のために少々停車いたします」という場面がありますよね。「前の列車が遅れて、詰まっているのなら解るけれど、なんで後ろの電車を待たなければいけないのか?」と思って何だか損した気持ちになります。
これは「運転調整」といって、列車が遅れると、さらに乗る人が増えて、さらに遅れていく。電車は混雑するし発車できない、前の電車がスイスイいってしまうからどんどん滞留が増える。そういう悪循環を防ぐためのシステムです。
でも、理屈ではわかりますが、これを実行するには、各駅にどのくらい人がいて、各列車が今どのくらい人が乗っていて、どこを走っているかをリアルタイムで正確に把握して、それを中央制御センターに送って瞬時に計算をして、運転手と車掌に指令を送る必要があります。これはもうほぼ自動運転管理システムです。自動車より鉄道のほうが圧倒的にIoTです。
東京メトロのサイトにアニメでこの運転調整システムを解りやすく紹介する動画があります。一応ニューヨーク地下鉄などにも導入されていますが、ここまで精緻なのは日本だけです。
自動で電車重量を管理
JRの電車では、今どのくらい乗客が乗っていて、どのくらいの重さかをリアルタイムで計測しているそうです。
電車のホームってドアとほぼ同じレベルにありますよね。でも、昔の駅って、プラットホームが低かったですよね。列車に乗るときはステップを上りましたよね。今でもヨーロッパやアメリカ、韓国の特急はそうですよね。では。皆さん、何で日本の電車のプラットホームは高いかご存知ですか?
それは、なるべく短時間で乗降をすませるためです。段差があったら手間がかかりますよね。ラッシュアワーに人がはけなくて困ってしまいますので、フラットにして乗降をスムーズにしているのです。
ところが、混雑した電車は乗客の重さで沈んでしまうんです。だから、ホームとドアを同レベルになるよう、台車の空気圧で、持ち上げて調整しているんです。で、その指令を出すためには、電車に乗っている人の重さを常にモニターする必要があります。「気をつけろ、あなたの体重 見られてる」。
JRの洗練された資産管理システム
JRは全国にものすごい数の資産を持っていますよね。鉄道車両、レール、駅舎、改札機、信号機、土地。でも、国鉄時代は、その資産の帳簿管理は非常にいいかげんだったそうです。ところが、JRになってから、ものすごく洗練された資産管理システムができたそうなんですね。どうしてかお分かりでしょうか。それは、
税金(固定資産税)がかかるようになったから
です。国鉄時代は国有資産だったので無税だった。それが民営化された瞬間、国が「税金払え」と言い出した。やっぱり人間お金が絡むと本気だしますよね。税金をなるべく減らそうと、せっせと資産を減価償却しはじめるんです。そうするには精緻な資産管理システムが出来たということです。このノウハウって途上国が喉から手が出るほど欲しい。JICAさん、ODAでよろしくお願いします。
SuicaとPASMOなど
JRや私鉄が導入した交通系カード。そのデータはまさにビッグデータ。特に定期券を買う顧客は、かなりの個人情報と鉄道利用情報がひもづけられるので、相当いろいろな分析ができるでしょうね。私は中の人ではないのでわかりませんが、エキナカでどんな店が流行るかとかマーケティングに使っているのかもしれませんね。
ドコモ、山手線車両内のスマホ位置を音波で特定
電車に乗ると、昔は多くの人が新聞を読んでいましたが、今はスマホの人が多いですよね。そしたら、そのスマホ情報も電車の情報に紐づけられたらっていう妄想が膨らみますよね。で、もう始めているという話。ドコモ、山手線車両内のスマホ位置を音波で特定 日経新聞 2014/3/6 23:00
結論:自動車より鉄道がよほどIoT
今、欧米は、電気自動車とか、自動運転の話で持ち切りですよね。自動車からIoTが進むと。しかしですね
道路を走っている車より線路を走っている電車のほうが、よっぽどIoT化に向いているし、もうされている。
そして、そのトップランナーな日本なんですね。欧米や中国韓国で話題にならないのは、彼らの鉄道システムがあまりに貧弱だからです。
JR東日本は第一生命など6社と一緒に、ユーグレナ子会社とSMBC日興証券などが運営するベンチャーキャピタルファンドに計20億円を出資したそうです。ものとインターネットをつなぐIoTや、人工知能(AI)などを研究開発するベンチャーにファンドを通じて出資し、自社事業との相乗効果を狙うということです。「ファンドが対象とするのはAIや、ものとインターネットをつなぐIoT、ビッグデータ、エネルギーなど10分野」「ファンド出資各社は投資委員会への参加などを通じ、自社の事業と相乗効果が見込めるベンチャーの発掘に役立てる。」
是非鉄道各社は、国内だけでなく、自社IoTシステムのパッケージ化によるシステム輸出を狙っていってほしいと思います。
最後に、ジャカルタを走る東京メトロの中古車。東南アジアの人は日本の鉄道に憧れています。