オリバー・ストーン監督の歴史観への疑問と疑惑

八幡 和郎
オリバー・ストーン監督は、NHKが大々的に宣伝して放送した『オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史』で、「原爆投下は戦争を終わらせるために必要だったというのは幻想だ」 「原爆投下はソ連へのけん制が目的で軍事的に不要だった」「日本が降伏したのはソ連が参戦したからだ」という歴史観を披露し、来日して反米運動を扇動している。 

しかし、原爆投下が戦後におけるソ連との対立を予想してのことなら、トルーマンがソ連の参戦を促したことを説明できない。 ソ連が参戦したことで、満州の工業力を手に入れ、南北朝鮮の分断が生じ(夫人は韓国人だが)、日本人をシベリアに抑留して奴隷のように働かせ、北方領土を盗み、日本の占領に関与させ、中国の共産化を許したのである。

アメリカはソ連が対抗勢力にならないと思えばこそ、ソ連の参戦を求めたのであって、オリバー・ストーンの論理はここで完全に破綻している。

「日本人の知らない日米関係の正体~本当は七勝三敗の日米交渉史 (SB新書)を書きながら、もういちど、いろいろ証言を読んだが、東京も含めて日本が皆殺しされかねないという恐怖を与えた原爆に比べて、満州にソ連が侵入したことが同等の衝撃だったわけではなく、ポツダム宣言受諾の動機としてソ連の参戦はそれほど大きい要因ではない。

そもそも、「第二次世界大戦に連合国が勝ったのはどこよりもスターリンの功績だ」というオリバー・ストーンのこのドキュメンタリーはアメリカではどの程度の人が見ているのか?どなたかアメリカにおける評価を聞きたいものだ。NHKが大金払ってこの変なコミンテルン史観の宣伝ドキュメンタリーの実質スポンサーになっているのでないかと心配だし、その疑惑を精査するべきだ。

もちろん、だからといって、原爆の投下が正当化できるものではない。そもそも、国体維持を約束し、原爆の完成を通告し、ソ連の参戦の可能性も臭わして日本の決断を促せば十分だったはずだし、百歩譲っても民間人犠牲者が少ない軍事拠点に最初の投下はすべきだった。 

ただ、(日本でも開発していたのだから)頭ごなしに原爆は無条件にけしからんというだけでは、核保有国の人々を納得させられない。百歩譲ってもという議論も用意しないと核廃絶は前に進まないということは、頭の片隅におかねばなるまい。

八幡 和郎
SBクリエイティブ
2016-05-07

編集部より;この原稿は八幡和郎氏のFacebook投稿にご本人が加筆、アゴラに寄稿いただました。心より御礼申し上げます。