人生100年時代の厚生労働省のあり方を提言

小林 史明

先般から、2020年以降の経済財政構想小委員会で厚生労働省のあり方について議論してきましたが、昨日提言を取りまとめ、今日、稲田政調会長へ提出してきました。

昨夜ごろから先行して報道されていますが、全文の紹介はありませんので、こちらにアップさせていただきます。

本来、2020年以降の経済財政構想小委員会 中間提言 「レールからの解放」の実現にむけて、具体的な政策議論を進めていく予定でしたが、その前に、改革を進めるうえで主要な役割を担う、厚生労働省の組織体制について議論したものです。

組織を変えればすべて改革が進むというわけではありませんが、以前から、厚生労働省関係の法案審議が進まないことや、職員の残業時間が多いこと等が問題となっていました。

これからまさに重要な課題解決に取り組むにあたって、力を発揮しやすい体制となるよう提言をまとめました。組織体制についての議論は今回で一区切りし、今後は具体的な政策論を深めていきます。

以下、提言本文


 

厚生労働省のあり方について

 

平成28年5月11日

財政再建に関する特命委員会

2020年以降の経済財政構想小委員会

 

当小委員会では、2020年以降の「第2創業期」における社会保障のあり方を検討するにあたり、まず「人生100年時代」において国民の安心の基盤となる重要政策を担うことになる厚生労働省のあり方について検討した。以下、当小委員会における議論の経過を整理する。

 

1.なぜ今、改革が必要なのか

「人生100年時代」において、国民が未来に安心して進んでいけるためには、少子化対策、学び直しによる就労支援、真に困った人を助ける社会保障の再構築が必要である。

現在、厚生労働省が社会保障、感染症対策、雇用対策、職業訓練、援護政策など広範な重要業務を担当している。しかし、このような多岐にわたる業務を「一人の大臣」・「一つの役所」だけで担当することは困難になりつつある現状が、議論の過程においても明らかになってきた。

例えば、厚生労働大臣は、平成27年通常国会において、300時間以上の委員会審議に参加し、3000回もの国会答弁を行った。これは、他の大臣と比較すると突出して重い負担である。また、厚生労働省は、業務量に比して本省定員数が少なく、職員の残業時間は霞ヶ関でワーストである。国会でも、両院の厚生労働委員会が審議すべき法案が非常に多く、重要法案の成立が遅れる原因となっている。※別紙1参照

2020年以降の我が国社会の構造変化を見据えると、我々に残された時間は多くない。当小委員会が今後、社会保障改革の具体的な方針を検討するにあたって、着実な政策遂行が為されるための枠組みを確保する観点から、厚生労働行政の担い手たる厚生労働省のあり方を検討しておく必要がある。

 

2.議論の経過

当小委員会では、主に以下のような議論を進めてきた。

(1)厚生労働省は、社会保障、感染症対策、雇用対策、職業訓練、援護政策など、国民生活と密接に関係する重要な政策を数多く所掌している。予算規模も約32兆円と国債費を除く一般会計支出の約4割を占める。

(2)厚生労働省は平成12年の橋本行革により設立された。当時は、「国民生活の保障・向上」と「少子高齢化社会における国民生活・福祉の向上」という機能を担わせるため、厚生省と労働省を合わせて厚生労働省とした。

(3)橋本行革が行われた20年前には、ここまで人口減少や少子高齢化が急激に進むことは想定されていなかった。この20年間で社会保障給付は大幅に拡大し、働き方も大いに多様化した。女性の就労が拡大し、子ども・子育てに対する支援ニーズも大幅に拡大した。

(4)100歳まで生きることが当たり前となる「人生100年時代」には、さらに社会保障、雇用政策、職業訓練、少子化対策等の重要性が拡大する。今後は、単に社会政策の観点だけでなく、経済政策や科学技術政策、教育政策との連携も重要になる。例えば、医療・介護・保育人材の確保は、雇用政策だけでなく成長戦略の観点からも検討する必要がある。

(5)これまでの行政改革は「政府を小さくする」ことを目標に、部局数や職員数等について厳しい組織・定員管理を行ってきた。しかし、省庁・部局ごとの管理にとどまっており、分野横断的な機構・人員配置の見直しが難しいため、厚生労働行政に必要な人員が確保出来ていない。政府全体で、必要な機構や人員の配置を強化できる仕組みが必要である。

(6)厚生労働省が所管する医療や介護などの業務は、地方自治体が担っているケースが多い。毎年度の制度変更は都道府県や市町村の職員にも大きな負荷となっている。自治体への権限・財源移譲もセットで検討する必要がある。

(7)麻生政権時には、同様の問題意識から、「厚生労働行政の在り方に関する懇談会」が開催され、最終報告(平成21年3月)においては、国会対応、組織・人員のあり方等について提言がなされているが、提言に沿った改革が実施されているとは言い難い。

(8) 諸外国の厚生労働行政を所掌する省庁の機能分担を見ると、①『社会保障』『労働政策』②『社会保障』『年金・労働政策』③『社会保障』『年金』『労働政策』の3分類に分かれている。※別紙2参照

3.まとめ

これまでの議論を踏まえ、当小委員会としては、厚生労働省のあり方の抜本的な見直しについて党内で議論を行った上、ただちに改革を実行すべきと考える。その際、国会における審議のあり方についても検討が必要である。

 

例1:厚生労働省の分割・新省設置

下記のように関連する機能で分割、および新たな省の設置を検討する。

①社会保障(年金・医療・介護) 子ども子育て(少子化対策・子育て支援)

国民生活(雇用・再チャレンジ・女性支援)

 

②社会保障(医療・介護) 子ども子育て(少子化対策・子育て支援)

国民生活(年金・雇用・再チャレンジ・女性支援)

 

③社会保障(年金・医療・介護)

国民生活(少子化対策・子育て支援・雇用・再チャレンジ・女性支援)

例2:二大臣制の検討

なお、本提言における厚生労働省改革の検討とあわせて、「経済・財政再生計画改革工程表」に従って社会保障改革を着実に実施すべきである。


編集部より:この記事は、衆議院議員・小林史明氏(自由民主党、広島7区選出)のオフィシャルブログ 2016年5月13日の記事を転載させていただきました(アゴラ編集部で改題)。オリジナル原稿をお読みになりたい方は小林ふみあきオフィシャルブログをご覧ください。