今日聞いた講演の復習。
ロシアがシリア内戦にあれほど関与して、大きな影響を及ぼすようになり、その手法も、一方で隠密部隊の投入・電撃作戦で、他方で大っぴらな垂れ流し的な思想・プロパガンダ作戦であって、幻惑されることこの上ない。ロシア側の全体像を知りたいと思っていたのだが、非常に勉強になった。
軍事オタク垂涎の的であろう軍の編成や装備、軍需産業や武器輸出体制、準軍事組織などについて5-7章で詳細にまとめられているが、前半の国際政治・安全保障論に有益なところがきっちり書かれているので勉強になった。
(1)核抑止、(2)通常戦力、(3)非正規戦力、による抑止力のうち、真ん中の(2)が見劣りするロシアが、(1)の核抑止力の維持に拘りつつ、(3)の非正規戦力による抑止力を重視しているということなのだろうか。
近年明確になるロシアの「勢力圏」の発想や、ロシアが手段として多く用いて今のところ功を奏しているように見える「ハイブリッド戦略」など、中東・イスラーム世界を見る時にも欠かせなくなってくる要素だろう。
ロシア側の世界観・認識を読み解き、それが公式の軍事ドクトリンをどう支えており、具体的な軍事行動の事例にどう結びついているかまでつながっていくので非常に頭が整理される。ロシア側は、西側の新聞もNGOも経済援助も全部、「ハイブリッド戦略」を仕掛けてきているように見えて、それに対してどうやり返すかを日夜考えているようだ。
また、「あとがき」の「ロシアの強さと弱さ」も簡潔にして要を得ている。ロシアの例えば中東諸国から見れば非常に「強い」のだが、米露の超大国間関係でも、西欧・欧米との関係でも、また経済・財政上も「弱い」。ロシアの弱者の戦略が、クリミアやシリアなどで今、一時的に過剰に力を持っているように見えている可能性もあり、将来は分からない。そういったことも考えさせてくれる絶妙なバランスの取れた記述でした。
編集部より:この記事は、池内恵氏のFacebook投稿 2016年5月14日の記事を転載させていただきました。転載を快諾された池内氏に御礼申し上げます。