「障がい者」という表記に違和感を感じない人たち

尾藤 克之

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障害者は、何らかの原因によって長期にわたり日常生活または社会生活に制限を受けざるを得ない人のことをさします。健常者は障害者とは意味が対照になる表現で、特定の慢性疾患を抱えておらず日常生活行動にも支障のない人のことをさします。

近年、障害者の人権を尊重して「害」という文字を避けて平仮名で表記するケースが増えています。東京都の多摩市が「障がい者」という表記を最初に採用した自治体といわれていますが、採用した2000年以降、各自治体を中心にその傾向は広まりました。しかし、本質的な差別解消や処遇改善にはつながらないため問題視する向きもあります。

私自身は、障害者支援をライフワークとしておこなっていますが、認識する限り障害をもつ人は「害」という文字に関してさほど問題視にはしていません。過去には、多くの障害者が権利を侵害されてきた経緯が存在します。それらの経緯や言葉を平仮名にすることの議論が本質をわかり難くする危険性があるため「障害者」と表記しています。

●メディアや企業の扱いはどのようなものか

まずメディアのなかでも、特に新聞社はその扱い方が明確です。日本新聞協会(一社)に加盟している104社の表記について確認をしたところ一定の共通性が見られました。まず、一般記事や見出しにおける表記は「障害者」でほぼ統一されています。内容によって表記を変更する可能性があるものの扱い方は同一といえるでしょう。

分かりやすい事例として日本経済新聞2016年5月2日の記事を参考にしてみます。
障害者の職場、VBが手助け 大企業で導入進む
「障害者が健常者と同じように働くことのできる環境の整備を支援するベンチャー企業(VB)の製品やサービスが相次いでいる。企業で勤務する障害者は45万人で年々増えている。VBには創意工夫が試される。慢性的な労働力不足の中、障害者を戦力化したいという雇用する側の事情も追い風になっている。」(引用)

一方で、表記が定まらない箇所があります。それは採用情報です。日本新聞協会に加盟している新聞社のなかでも全国紙大手(読売、朝日、毎日、産経)は、採用情報を「障がい者採用」と表記しています。行政や自治体の扱いをみてみます。東京都は「障害者採用」という表記です。ハローワークは「障害者求人」という表記を全国統一で使用しています。

つぎに企業にも目を向けて見ます。上場企業を中心に調べてみたところ、ほとんどの会社は「障がい者採用」の表記でした。しかし、数社ではあるものの「障害者採用」の表記がみられた会社もありました。

ここでは参考事例として、カシオ計算機株式会社、キリン株式会社の2社をあげておきます。この2社は障害者採用におけるポリシーを明文化し独自ページを用意しています。企業のスタンスが明確化されているので好感がもてます。特に、カシオ計算機は先輩社員のメッセージとして、社内で活躍する障害をもつ従業員を紹介し「やりがい」「仕事内容」などについてインタビュー記事を載せています。

カシオ計算機株式会社・障害者採用情報
キリン株式会社・障害者採用情報

他には、電源開発、クレディ・スイス証券、チムニー、全農(JA)、セコム損保、ソルクシーズなども「障害者採用」と表記しています。なお、今回は表記の調査であり実際の障害者支援の取組みを調査したものではないことを付記しておきます。

●「障害者」「障がい者」どちらが正しいか

障害には、ものごとの達成や進行の「さまたげ」「さしさわり」となることの意味が含まれています。法令などで障害の語が当てられるようになってから障害者という表記が一般的になりました。「障」は「さしさわり」とも読みますから、表記よる差別を払拭したいのであれば全てを平仮名にして「しょうがい者」としなければ不自然でしょう。

また、健常者の意味には「常態的に健全である」ことの意味が含まれています。健常者の対義語が「障害者」ではありません。むしろ障害者ではなく「非健常者」という表記のほうが個人的にはしっくりきます(それには該当しないという意味)。私は「障がい者」という表記に違和感を感じています。同様に感じている人は少なくないことでしょう。

追伸

昨日、学生時代の友人であるM君から難病指定にされている、ある病気に罹患したと連絡があった。君は家族のために頑張れ。私も自らの使命を全うし成すべきことをしようと思う。

●尾藤克之(BITO Katsuyuki)
コラムニスト/経営コンサルタント。議員秘書、コンサルティング会社、IT系上場企業等の役員を経て現職。著書に『ドロのかぶり方』(マイナビ)『キーパーソンを味方につける技術』(ダイヤモンド社)など多数。
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