トランプをレイシストだと罵る人に不都合な真実

渡瀬 裕哉

USMuslimCandidateSupportin2016PresidentialPrimary

トランプは実は共和党系のムスリムから最も人気がある予備選の候補者だった

2016年の大統領選挙において数か月前に一部のメディアで報道されたムスリムの投票傾向に関するデータの一つを紹介したいと思います。

上記のグラフはCouncil on American–Islamic Relations(CAIR)という在米のイスラム教徒の団体が今年3月に行われたスーパーチューズデーに際して、イスラム教徒1850人にアンケートを実施した結果です。(アンケート結果はこちら

アンケート結果からも分かる通り、ムスリムのうち民主党系ムスリムが67%と過半数以上を占めている状況ではありますが、共和党系のムスリムも18%存在しており、回答者の約5人に1人は共和党系ムスリムという比率だったことが分かります。

USMuslimPoliticalPartySupportin2016PresidentialPrimaries

一方、冒頭のグラフでも示した通り、トランプは共和党の予備選挙候補者の中では圧倒的な人気を誇っており、他候補者の追随を許さずにムスリム教徒からの圧倒的な支持を受けていました。米国在住ムスリムの10人に1人以上はトランプを支持しているということになります。

ヒラリーは有色人種対策に熱心であるためにサンダースよりもかなり高い数字を獲得しています。トランプ氏はレイシストだのなんだと誹謗中傷を受けることが多いのですが、下記のアンケート結果でいくとフロリダではサンダースとの支持率の差は僅か3%しかありません。同州ではサンダースはレイシストとして批判されるトランプとほぼ同じ程度しかムスリムから支持を獲得できていないということになります。

USMuslimSupportforCandidatesbyState

トランプがムスリムから人気の理由は「経済に強そう」だから

では、トランプ氏が共和党系のムスリムから支持を受けた理由を推察するためには、同アンケートで共和党系ムスリムが予備選挙で「経済」を最も重視する要素として取り上げていることに注目すべきでしょう。したがって、共和党系ムスリムからトランプは「経済に強そう」という理由で支持されていたことが分かります。

MostImportantIssuetoUSMuslimRepublicansin2016PresidentialPrimary

一方、民主党のムスリムはイスラム蔑視を最も重要視した人が多かったことが確認されています。ただし、関心事項1位のイスラム蔑視が27%、2位の経済が19%ということで1位と2位の差は僅か8%しかありません。つまり、民主党系ムスリムであったとしても「ムスリム蔑視」(レイシストの問題)を最重要視している人は約4人に1人ということになります。

MostImportantIssuetoUSMuslimDemocratsin2016PresidentialPrimary

「TIME」が取材したトランプに投票したムスリムの実像について

スーパーチューズデー後にTIME誌がトランプ氏に投票した3人のムスリムの実像について取材をしています。いずれの人々もトランプの反イスラム発言については深刻に捉えておらず、米国の住民として安全保障や経済問題などの観点からトランプ氏に投票していることが分かります。

Meet Three Muslims Voting for Donald Trump(TIME)

筆者は彼らがトランプ氏がレイシストであると主張して集会などで大声で抗議するような人々よりも極めて知的な回答を行っている印象を受けます。トランプ氏の発言を大人の目線で冷静に捉えており、自分自身がムスリムだからといってナイーブに騒ぎ立てるような印象はありません。

もちろん、筆者自身はムスリムではありませんから、彼らの心中については想像するしかありません。しかし、公表されたデータからは当のムスリムが全員一丸となって反トランプではないことが読み取れます。

「トランプはレイシストだからムスリムからは支持されていない」は間違っている

米国の大手メディアの大半は反共和党かつエスタブリッシュメント寄りであり、トランプ氏とその支持者は安易なステレオタイプ化の被害者となっています。そして、米国のメディアに情報を依存する日本メディアと日本人有識者らによって、日本人は単純化された解像度の低い米国大統領選挙の報道を消費させられています。

しかし、現実は「共和党の予備選挙候補者でムスリムから最も支持されていた候補者はトランプだった」ということは動かしがたい事実です。

在米のムスリムが彼らへの差別を感じていることは事実だと思います。しかし、殊更にそのことを重視するか否かは共和党系・民主党系ムスリムで異なるとともに、両者に共通する問題は経済であり、さらに共和党系ムスリムは「経済に強そう」という理由で予備選挙でトランプ氏に投票しているのです。

街頭・集会でデモをやったり抗議をしたりする類いのニュースにしやすい情報は日本にも入ってきます。そして、それを煽り立てる偏ったメディアや知識人が多いため、私たち日本人の目には在米ムスリムは「反トランプ一色」に見えしまいます。しかし、現実はちょっと違うみたいです。

トランプ氏をレイシストだと煽り立てる人々にとって不都合な真実は今後もフィルタリングをかけられて葬り去られていくでしょう。今回は備忘録的に書き留めておきたいと思います。

プロパガンダ―広告・政治宣伝のからくりを見抜く
アンソニー プラトカニス
誠信書房
1998-11-01

 

本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などは[email protected]までお願いします。

渡瀬裕哉(ワタセユウヤ)
早稲田大学公共政策研究所地域主権研究センター招聘研究員
東京茶会(Tokyo Tea Party)事務局長、一般社団法人Japan Conservative Union 理事
その他の個人ブログ記事を読みたい人はこちらまで