伊勢志摩サミットで安倍首相は、「エネルギー・食料・素材など商品価格がリーマン・ショック前後での下落幅である55%と同じ」で「リーマン級の経済危機再燃を警戒する」と次のような図で説明したが、各国首脳は首をかしげた。
たしかに2008年にも原油価格は暴落したが、それは「危機の前兆」ではなく、金融危機の結果である。安倍首相は知らないのかもしれないが、サブプライムローン危機は2007年夏のパリバ事件から始まり、アメリカの大手投資銀行ベア・スターンズは2008年5月に経営が破綻し、ニューヨーク連銀に救済された。それが図のピークと一致している。
これによって金融危機が表面化し、投機資金が引いた結果、商品価格が暴落したのだ。それより規模の大きいリーマンが救済されなかったため世界的な金融危機に発展したが、今の原油暴落の原因は新興国の需要の減少やOPECの生産過剰などの需給要因で、金融危機の結果でも前兆でもない。
「前回の洞爺湖サミットで金融危機を見逃した」という反省はその通りだが、私が当時のブログ記事に書いたように、当時は原油高のピークで、金融の異常な状態をどうするかを協議すべきだったのに、「環境サミット」と称してトンチンカンな茶飲み話で終わった。
その前の2000年の沖縄サミットでは、日本が金融危機の最中だったのに、外務省は「ITサミット」と称して、途上国への150億円のIT支援を打ち出し、「電力もない途上国にコンピュータを送っても意味がない。それより医療や食料の援助が先だ」と批判を浴びた。
サミットなんていつもこういう無内容なサロンで、もうやめたほうがいい。まして今回の奇妙な「危機説」が、世界最悪の政府債務を抱える日本が増税を延期するための国内向けの理由づけだとすれば、世界のエコノミストの失笑を買うだけだ。