G7 安倍首相のポジション

「安倍晋三首相は2008年のリーマン・ショック並みの危機が再発してもおかしくないほど世界経済が脆弱になっているとの認識を表明し、各国に財政出動を含む強力な政策の実施を促した」(日経)。G7に於ける議長、安倍首相の戦略はこの言葉にあるかと思います。

この発言に異論が出たとも記されていますが、私も「リーマンショック並の危機の再発」が即座にテーブルに上がる状況にはないと思っています。唯一の懸念は中国ですが、それにしても下振れリスクを異様に強調しすぎている気がします。個人的解釈はそれをもとにサミット後、多分、国会の会期である6月1日までに消費税引き上げ時期の延期を発表するための道筋をつけたものと思われます。

つまり、議長のこのトーンは日本国内経済とその政策的導線を作るため上手く方向づけたのでしょう。

数日前に開催されたG7財務相中央銀行総裁会議では世界経済危機や下振れの話は出ていません。「世界経済は落ち着きを取り戻しつつある」(麻生太郎財務相)、「それほど神経質な状況ではなくなった」(ショイブレ独財務相)であり、アメリカでは6月ないし7月に利上げをするオッズは5割まで上がってきています。

昨日発表されたカナダの中央銀行政策会議の中身を見ると概ね最悪期を脱し、徐々に回復に向かうというトーンに読み取れます。短期的にはアルバータの森林火災がもたらした影響がありますが、資源価格が底打ちしていること、合わせてカナダドルが対米ドルで中期的には底入れから反発に向かっています。他の資源国も同様の回復を辿るとみています。

基調としてはドル安で資源価格回復、新興国経済の回復というシナリオですからアメリカは6月に利上げをするのは本質的に芳しくありません。イギリスのEU離脱の可能性はますます下がってきており、G7でも主たる議題になっていないようですからこれも世界経済にはポジティブな流れかと思います。

パナマ文書についてもどのように議論されたか分かりません。多分、あまり主題としては上がっていないと思います。この文書流出の意味合いについていろいろ考えを巡らしてみたのですが、これは誰をターゲットにしたものか、といえば税逃れや税システムへの問題提起と共に中国の不正マネーを締めあげるつもりだったように思えるのです。中国が不動産のみならず、世界の企業をあちらこちらで買いまくっている実情を鑑み、そのマネーの流れを変えたかったように見受けられます。

今、アリババがアメリカのSECの調査にかかっていますが、同社も中国政府にべったりの会社であります。つまり出過ぎた杭は打たれる、ということかと思います。これは中国の異様なまでの急速な世界進出のスピードを調整させ、世界経済のバランスを維持するという意味からは効果的なクスリではないでしょうか?

こうしてみるとやはり、今回のG7は以前にも指摘したように議題があるようでないイベント的色彩が強いものではないでしょうか?先進主要国とは日本を除き、白人国家でキリスト国家であります。日本は戦前から欧米から一目置かれていたアジアの国です。国際連盟では常任理事国でしたし、「美白効果」で白人社会からの一定の評価を維持しています。

今日、世界経済に本当に影響力を持つのはカナダでもイタリアでもありません。中国であり、イスラム諸国であります。アジアの時代を迎えていることも踏まえ、G7が形骸化しつつあるような気がしてなりません。

為替の安定化については引き続き、対策を打ち続けなくてはいけませんが、これほど「国情」が入る事象もないわけで今回G7で議論された内容に期待しましょう、などとは微塵も思っていません。本当の安定化を図りたいなら通貨バスケット方式など多通貨をベースにする方式に変えるか代替通貨が今後飛躍的に伸びることを前提にバスケットに代替通貨も組み込み、ドルの基軸化を崩していくしかないような気がします。

少なくとも今回のG7が緊切の事案を持っておらず、平和な日本と広島を結びつけた点でオバマさんにとっては最高で最後のサミットの舞台となるのではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 5月27日付より