もう一度大きな油価下落があると大型M&Aが?

次の石油業界の大型M&Aは、現在の低油価が「ニューノーマル」と認識される時だ、と考えていたが、財務上の重圧から防衛的なM&Aがなされる可能性があるとのEd Crooksの指摘に、筆者は「さもありなん」と頷いている。FTが今朝(2016年5月29日6:25pm)報じている “Big oil groups raise net debt by a third to cope with low oil prices” という記事だ。

Bloombergがまとめた欧米大手石油会社15社の純負債が、2016年3月末までの1年間で970億ドル増加し3830億ドルになっている、という記事だ。BGを買収(2015年4月合意、16年2月手続き完了)したシェルが190億ドル増加させたのが最大で、今年の3月末には700億ドルになっているが、エクソンモービル(EM)も107億ドル増やし383億ドルに、BPも60億ドル増加させ306億ドルになっている。特に油価27ドル割れを記録した今年第一四半期(1~3月)の増加が際立っているそうだ。

この事実からEdは、記録的な低金利とこの春の価格回復(先週末49ドル)により一服状態にあるが、もう一度大きく価格が下落すると、大手石油会社は人員カット、投資削減、さらには配当金カットを行わざるを得ず、防衛的な(defensive)M&Aの可能性が出てくる、と指摘しているのだ。

記事にはさらに、次のような記載がある。

・格付け会社Standard & Poorsは先ごろEMをトリプルAからダウングレードした。

・米コノコフィリップス(CP)と伊エニ(ENI)はすでに配当金をカットしたが、他の大手石油会社は配当金維持を株主にコミットしている。

・Plulip Verleger (エネルギーアナリスト)は「(カザフスタン)のカシャガンやブラジル沖の深海プロジェクトに投資している大手石油会社は、負債返済と配当維持のために投資を削減しなければならない」と言っている。

・これらの状況を受けて、大手石油会社は戦略変更をしている。たとえばシェブロン(純負債額約330億ドル)は、時間と資金のかかる大型プロジェクトから中小案件へ、BPは同様の大型案件から手を引くなどの方策をとっている。

・大手石油会社の純負債が増加しているのと対照的に、米シェール開発をリードしてきた中小開発業者は、銀行が新たな融資をおこなわないため、純負債額は増えていない。先週、Parsley Energyが2億ドルの高利回り社債の発行を行ったが、これが今年に入って最初の高利回り社債の発行だ、として記事を結んでいる。

なお記事が紹介しているグラフから読み込むと、2016年3月末の純負債額は多い順に次のようになっている(一部は記事の中にある数値を使用。残り6社は記載なし)。

シェル 700億ドル、EM 383億ドル、シェブロン330億ドル、BP 306億ドル、トタール 290億ドル、CP 240億ドル、レプソール(西) 150億ドル、ENI 130億ドル、スタットオイル 110億ドル

会社経営陣はいかにして株主利益を中長期的に増加させるかが使命だから、現在の低油価は「ニューノーマル」ではないと考えても、短期的に資金が回らなくなり、他社に身売りすることもありうるのはその通りだろう。

6月2日に予定されているOPEC総会がどうなるのか、MBSの「ビジョン 2030」の肉付け内容はどんなものになるのか、DUCが目立って生産に移行するのか、カナダの山火事、ベネズエラやナイジェリアの国内情勢など、まだまだ目を離せない展開が続きそうだ。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年5月30日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。