ヘリコプターマネーって何?

池田 信夫

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安倍首相は来年4月に10%に上げる予定の消費税を2年半のばして、2019年10月からにすると、関係者に伝えました。これであと3年は今の8%の消費税が続きそうですが、これで国の財政はまかなえるんでしょうか?

もちろんまかなえません。今年度の一般会計歳出は96兆円ですが、税収は60兆円しかないので、残りの36兆円は国債(国の借金)です。そんなたくさんの国債を買ってくれる人がいるんでしょうか? 心配ありません。もし借りてくれる人がいなくなったら、日本銀行がいくらでも買ってくれるからです。

日銀はそのお金をどうやってまかなうんでしょうか? これも心配ありません。日銀はお札を発行できるので、いくらでも国債を買うことができます(「日銀がお札を印刷できる」という人がいますが、印刷するのは造幣局です)。日銀がお札を発行して国債を買えばいいのです。

日銀が国債を直接買うのは財政法で禁じられていますが、銀行が買った国債を日銀が買うのはかまわないので、今はそうしています。これを財政ファイナンスといいます。国債の多くは、みなさんのおじいさんやおばあさんのもらう年金や医療費などに使われます。

これは日銀がヘリコプターから国民にお金をばらまいているのと同じようなものなので、ヘリコプターマネーとよばれます。日銀が銀行にお金を貸しても世の中に出回るとは限りませんが、ヘリコプターマネーでばらまくと世の中に出回ります。野口悠紀雄さんは「ヘリコプターはもう離陸した」といっています。

今のように国債が売れて金利も低いときはいいのですが、そのうち国債が売れなくなったらどうなるんでしょうか? それは日銀が全部買って、塩漬けにすればいいのです。極端にいえば、国債で財政をすべてまかなえば、税金をはらわなくてもいい無税国家ができます。

でもそんな夢みたいな話が実現するんでしょうか? いま国債は800兆円ぐらい発行されていますが、日銀がもっているのは300兆円ぐらいです。あと500兆円の国債を全部買うまでに他の銀行や生命保険が国債を売り始めると、金利が上がります。1%金利が上がると、国債の価格が下がって日銀は15兆円ぐらい損します。

日銀の自己資本は6兆円しかないので、日銀は債務超過(借金が払えない)になりますが、これは政府が穴埋めできます。そうすると政府が赤字になるので国債を発行し、それを買うと日銀が赤字になり、それを埋めると政府が赤字に…と雪ダルマ式に赤字がふえます。

こういう状態になると、財政が不安定になって金利がさらに上がり、インフレが起こります。たとえば物価が毎年5%ずつ10年上がると物価は1.5倍になるので、いま1200兆円の政府の借金の実質的な価値は1200÷1.5=800兆円にへります。

ピケティとかブランシャールなどの有名な経済学者も、「日本のように大きな政府の借金はインフレで踏み倒すしかない」といっています。これは実質的には、毎年5%の「インフレ税」をかけるのと同じことですが、国会で決める必要がないので簡単です。

しかし物価が毎年5%ずつ上がるとは限りません。日銀がばらまくのをやめてもお金は流通するので、インフレがインフレを呼んで物価が2倍になったら、みなさんのもっているお金の値打ちは半分になります。早めにドルに替えるとか金(きん)や不動産などを買っておいたほうが安全でしょう。