独サッカー・ナショナルチームの一員で、バイエルン・ミュンヘンに所属するジェローム・ボアテング選手(27)について、ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)のアレクサンダー・ガウランド副党首は、「サッカー選手としてはいいかもしれないが、隣人にはしたくはない」と語った事が報じられると、サッカー関係者ばかりではなく、与野党の政治家から大きな批判の声が上がっている。同副党首がフランクフルター・アルゲマイネ日曜版(FAS、5月29日)とのインタビュー記事の中で語ったもの。
▲独サッカー・ナショナルチームのメンバー、ジェローム・ボアテング選手(ウィキぺディアから)
AfDのフラウケ・ペトリ―党首は、「ガウランド副党首はそのようには発言していないと述べていた。誤解を与えたことに対し、ボアテング選手には謝罪したい」と述べている。その一方、イェルク・モイテン共同党首は、「ガウランド氏の発言が全く誤解されて報じられただけだ。後で発言は訂正されているから、この件は解決済みだ」(独経済紙「ハンデルスブラット」30日付)と、鎮静に務めている。
また、ラインラント・プファルツ州のAfD党首ウヴェ・ユンゲ氏はボアテング選手に対し、「移民者の社会統合の模範だ」と称賛している。同選手はガーナ人の父親とドイツ女性の間に生まれた。
ちなみに、ガウランド副党首自身は29日、「自分はそのように言っていない。ボアテング選手を個人的に知らない。だから、同選手の名前を出して発言し、侮辱するといったことは考えられない」と弁明している。一方、FAS側は「ガウランド氏は報じられたように発言した」と再度強調している。FAS記者によれば、インタビューは25日、2人のベルリンの同僚記者と一緒に行ったという。
AfD副党首の発言について、与野党から厳しい批判の声が出ている。ハイコ・マース法務相(社会民主党出身=SPD)はツイッターで、「無神経な発言で絶対容認されない。あのような発言する者こそ悪い隣人だ」と非難。「キリスト教民主同盟」(CDU)のユリア・クレックナー副党首は、「ガウランド氏よりボアテング選手を隣人にしたい。AfDの政治家の典型的な発言だ。侮辱し、扇動し、後で否定するやり方だ」と述べている。
また、ガブリエルSPD党首は、「AfDはドイツ人排斥であり、外国人排斥ではない」と皮肉を込めて強調し、「同盟90・緑の党」連邦議会副議長のカトリン・ゲーリング・エッカルト女史は、「ガウランド氏とAfDはドイツをまだ理解していない」と述べ、CDUのアーミン・ラシェット副党首は、「ガウラント氏は純粋に民族主義者だ」と批判している、といった具合だ。
独サッカー連盟(DFB)のライハルト・グリンデル会長は、「ボアテング選手とナショナルチームの人気を政治標語に悪用するとはまったく俗悪だ」と一蹴している。ちなみに、欧州選手権(ユーロ2016)前の準備試合、ドイツ対スロバキア戦が29日、アウグスブルクで行われたが、サッカーファンたちは「ジェロームは我々の隣人だ」と書いたプラカードを掲げていた。(以上、オーストリア通信参考)
独週刊誌「シュピーゲル」電子版は30日、ボアテング選手のコメントを紹介している。
「それについては笑う以外にないね。今日でもそのような発言が飛び出すことは悲しい」
AfDは2013年2月、ベルリンで創設された政党で約2万人の党員(2016年4月現在)を有する。2014年には欧州議会選挙で議席を獲得し、州議会レベルでも議席を確保し、ドイツ政界の台風の目となってきた。欧州統合には懐疑的で、ドイツ・ファーストを標榜し、隣国オーストリアの極右政党「自由党」と連携を深めている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年5月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。