「官邸主導」の素人集団が経済を混乱させる

池田 信夫

安倍首相のサミットでの「リーマン発言」の犯人さがしが始まっている。本人は「誤報だ」といい、世耕官房副長官は「私が言葉足らずだった」と上司をかばっているが、首相の見せた図には「商品価格は55%下落しており、リーマンショック前後と同じ」と書いてある。

だから問題は口頭の説明ではなく、この珍妙な資料を誰がつくったかだ。外務省も財務省も「知らなかった」と驚いているので、これは今井秘書官(経産省出身)を中心とする官邸スタッフがつくったものと思われる(パワーポイントファイルには「今井尚哉」と署名があったという)。

最近はこのように各省の頭越しに「官邸特命チーム」がつくられることが多いという。それはいいのだが、世界の経済情勢を首相が各国の首脳に説明するのだから、それなりの専門家の目を通すのが当然だろう。少なくとも今井氏と世耕氏は事前に見たはずだから、彼らは2人ともマクロ経済をまったく理解していないということだ。


G7諸国の2015年の実質成長率(出所:IMF)
商品相場なんてトンチンカンな指標を持ち出してきたのは「日本経済の不調の原因はアベノミクスの失敗ではなく、世界経済の危機だ」といいたいのだろう。しかし上の図のように昨年の成長率をみても、日本の成長率はG7諸国で最低で、PIIGSなどとバカにされているイタリアより低い。

この最大の原因は生産年齢人口の減少などによる潜在成長率の低下だから、金融政策ではどうにもならない。経産省はターゲティング政策で「GDP600兆円」を実現するつもりらしいが、絵に描いた餅だ。安保政策では成功した「官邸主導」の体制が、経済政策では素人集団のトンデモ政策で混乱する原因になっている。

特に安倍氏が財務省を敵視していることが、問題を悪化させている。小泉改革が成功したのは、「大蔵族」といわれた小泉氏が財務省を使って特殊法人の民営化や社会保障の抑制を実現したからだ。ところが安倍氏は「財務省と日銀がデフレの犯人だ」というリフレ派の嘘を信じ込んで、支離滅裂な財政・金融政策を続けてきた。その結果がこのざまだ。

その意味で、彼がダブル選挙を見送ったのは失敗だった。いま解散できなければ、経済はどんどん悪くなる。2017年の日本の成長率は-0.1%になると、IMFは予測している。そういう状況で「追い込まれ解散」になると、麻生首相のように政権を失うリスクもある。

逆にいうと、これは野党のチャンスだ。長島昭久氏のいうように、内閣不信任案も野党が消費税増税の先延ばしを言わずに三党合意の実行を迫れば、対立軸は明確になったはずだ。あと最大2年の猶予ができたので、民進党は態勢を立て直すべきだ。

7月に行なうアゴラの合宿では、次の民進党代表の候補とも目される細野豪志氏と田原総一朗氏が、こうした戦略転換を議論する予定だ。