潘基文氏の大統領選出馬に懸念

長谷川 良

韓国ソウル西部地裁は5月25日、「憲法や民法では婚姻は男女間を前提としている」として、同性愛者の訴えを退ける決定を下したが、潘基文国連事務総長が次期大統領に選出されれば、同性婚の認知は迅速に推進されるだろう。潘基文氏は昨年6月、米サンフランシスコ市庁舎で「ハーベイ・ミルク勲章」を受けている。同勲章は米政治家で同性愛者の活動家だった故ハーヴェイ・ミルク氏(1930~78年)の遺族が創設したもので、同性愛者運動に寄与した人物に贈られる賞だ。

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▲同性愛歌手ヴルストさんを歓迎する潘基文国連事務総長(2014年11月3日、ウィーン国連内で撮影)

同氏は過去、同性婚には積極的に支持を表明してきた。米連邦最高裁判所が同性婚を合憲と判断した時、同氏は真っ先に歓迎を表明している。世界には同性婚を公認しない国が多数存在する。国連憲章第100条1を指摘するまでもなく、国連事務総長はその職務履行では中立性が求められているが、同性愛の問題では同氏はそれを完全に無視してきた。

潘基文氏が同性愛者を歓迎する場面を目撃したことがある。女装で髭を生やした同性愛者の歌手、2014年デンマークのコペンハーゲンで開催されたユーロヴィジョン・コンテストの優勝者コンチタ・ヴルスト(Conchita  Wurst)さんが同年11月3日、ウィーンの国連で歌を披露した時、ヴルスト氏を最初に歓迎したのは潘基文氏だった。

潘氏は、「国連内では人種、性的指向の差別は存在しません。ヴルストさんが性的差別の克服のために健闘されていることを高く評価します」と挨拶している(「国連にも招かれたヴルストさん」2014年11月5日参考)。

その潘基文氏は、「来年1月1日に韓国市民に戻った段階で将来について明らかにしたい」と述べ、次期大統領選への出馬を公式には発表していないが、同氏の大統領選出馬は韓国政界では折込済みと受け取られている。国連事務総長の任期末期に入り、潘基文氏の動きが実際、慌ただしくなっている。

韓国政界が知名度で高い潘基文氏を大統領選に担ぎ出そうとしていることについて、韓国大手日刊紙「中央日報」は辛辣な社説を掲載している。

「『任期が7カ月残っているのに世界機関の最高位公職者として過度に政治的な行動をした』という一部の批判を、潘総長は謙虚に受け止めるべきだろう」(中央日報日本語電子版5月31日)と指摘し、潘基文氏への異常な熱狂ぶりに対しても、「我々は韓国政界の人的基盤がこれほど脆弱だったのかという失望感を隠せない。潘総長は生涯、政治に足を踏み入れていないし、10年間も外国で暮らした。政界が国民の信頼を得て安定していれば、潘総長は権力意思を容易には表出しにくかったはずだ」

「大使の部屋は夜遅くまで光が灯されていた。いつ突然、外出すると言われるかもしれないので夜遅くまで待機せざる得なかった」。潘基文氏が駐オーストリア大使だった時の大使専属運転手が当方にそう語ったことがあった。同氏を知る多くの人は異口同音に「潘基文氏はワーカホリックだ」という。

大使、国連大使、外相、そして職業外交官の最高峰である国連事務総長に抜擢されたのは、同氏の勤勉さと野心があったからだろう。そして今、次期大統領が次のターゲットになってきたのだ。

同氏は外観的にはソフトな印象を与えるが、かなり頑固だ。中国の北京で開催された「抗日戦争勝利70周年式典」とその軍事パレードに夫婦で参加した潘事務総長は日本や米国からの批判に対し、「国連に対して誤解している。国連や国連事務総長が求められているのは中立性ではなく、公平性だ」と堂々と詭弁を弄した人物だ。

当方はこのコラム欄で「『中立性の原則』を破った潘基文氏」(2015年6月29日)、「潘基文氏のとんでもない『反論』」2015年9月7日)、「潘基文事務総長の『任期末症候群』」2016年1月29日)等で、潘基文氏の外交官としての資質に疑問を呈してきた。その上、同性婚に対する同氏の考えは韓国の伝統的な家庭観を一層混乱させる危険性があると言わざる得ないのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年6月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。