【映画評】素敵なサプライズ ブリュッセルの奇妙な代理店

素敵なサプライズ

オランダ貴族で大富豪のヤーコプは、幼少期のトラウマによって感情を失い、生きることに楽しみを感じない人生をおくってきた。母の死後、自殺を考えていたヤーコプは、偶然から、ブリュッセルの旅行代理店が、自殺ほう助のサービスを提供していることを知る。いつ死が訪れるかわからないサプライズコースに申し込むが、そこで同じコースに申し込んだという女性アンネと出会い、ヤーコプの毎日は少しずつ色付き始める。もう少し生きていたくなったヤーコブとアンネは、謎の代理店の激しい追跡をかわしながら逃避行の旅に出るが…。

オランダ映画「素敵なサプライズ ブリュッセルの奇妙な代理店」は、少しコミカルで、かなりブラックで、大どんでん返しが用意されている不思議なテイストのコメディー映画だ。何よりも驚くのが、この作品の監督が、胃が痛くなるほどシリアスな「キャラクター/孤独な人の肖像」(アカデミー賞外国語映画賞受賞作)のマイク・ファン・ディム監督だということ。とても同じ監督の作品とは思えないほど、スピーディでポップな作風なのだ。自殺ほう助をお願いしておきながら、気が変わって逃げ回るという設定だけでもかなり笑えるが、途中、カーチェイスもあれば、貴族社会のゴージャスな日々を紹介するパート、さらには感情を失ったヤーコプを心配する心優しい執事のあたたかいドラマもある。そして終盤の思いもよらない展開…。これはぜひ映画を見て確かめてほしい。

出演しているのは、日本ではなじみの薄い俳優ばかりだが、実に味がある。自殺をビジネスにし、近い将来、これはもっと盛んになるという代理店の経営者のセリフには背筋が寒くなったが、死を前にして生の意味を見出す主人公たちは、思わず応援したくなる。

【70点】
(原題「THE SURPRISE/DE SURPRISE」)
(オランダ/マイク・ファン・ディム監督/イェロン・ファン・コーニンスブルッヘ、ジョルジナ・フェルバーン、ヤン・デクレール、他)
(エキセントリック度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年6月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。