ちょうど第169回OPEC総会の開催が宣言された頃、FTが興味深い記事を掲載した。 ”OPEC is not dead – it is adapting” (June 2, 2016 11:22am) と題する論考だ。コロンビア大学国際エネルギーセンターのMr. Antoine Halffという人が著者である。
一昨日、ウィーンに到着したザンギャネ・イラン石油相は「OPEC全体の生産上限設定は無意味だ。各国別の生産枠にしなければ」と語ったと伝えられるが、「各国別の生産枠」を設けても、生産水準の的確なモニタリングシステムと違反国への厳しい、実行可能な罰則が伴わなければ、まったく意味がないことは歴史が証明している。
一方、”Fragile Five” と呼ばれる財務体質の脆弱な五カ国(ベネズエラ、ナイジェリア、アルジェリア、リビア、イラク)が望むのは、サウジ等が率先して生産削減を実行して原油価格の値上げを実現する、ということだが、それはないものねだりだ。なぜなら、Mr. Halffが指摘しているように、生産量を調整することによるマネージメントが機能しない時代になっているからだ。
Mr.Halffの論点は、OPECが「何もしない」ことで「OPECは死んだ」とすでに死亡宣告を告げるエネルギーアナリストもいるが、OPECは1960年の誕生以来、たえず状況変化に合わせて変化してきている。今回もそうだ、ということだ。
特に、在来型の石油開発と異なり、生産開始までの期間が短く、価格弾力性の強いシェールオイルの出現によって、従来の方法、つまり生産量を調節することにより市場をマネージすることが困難な時代になっている、と指摘している。そして、サウジはそれを理解している、それが減産を行わなかった理由なのだ、と。
シェールオイルの出現による時代の変化を理解するには、2015年10月にBPのスペンサー・デール(調査部門のトップ。イングランド銀行のチーフエコノミストや金融政策委員を務めた経験がある)が行った講演「石油の新経済学(New Economics of Oil)」をお読みになるのがいいだろう。ネットで容易に検索することができる。要点は、筆者の次作『原油暴落の謎を解く』(文春新書、2016年6月20日刊行)で紹介しているので参考にされたい。
Mr. Halffはいう。OPECは、1960年の誕生以来、大手国際石油会社との関係、資源の国家主権の問題、公示価格時代の価格決定権、国有化の実現等々、その時々の時代に合わせた政策展開をして来ており、今回も「シェールオイル」の出現等の状況変化に合わせて変化しようとしているのだ、と。
今回の総会は、ガボンの再加盟や変則的となっている事務局長人事などが議題となっており、「生産上限」問題は俎上に上っていないと伝えられている。
Mr. Halffの見立てが正しければ、今回のOPEC総会で「サプライズ」はないだろう。モハマッド副皇太子もリヤドでの国債発行条件交渉で多忙だろうし、ラマダンももうすぐ始まるのだから、波乱は望まないだろう。
市場のリバランス(需要と供給が均衡化すること)は少しずつ進んでいる。インドの需要は根強い。アメリカのドライブシーズンが始まった。カナダの山火事の影響によるオイルサンドの生産停滞は解消されそうだが、”Fragile Five” の国内情勢は噴火直前の様相だ。だが、爆発しなければ、世界全体の供給過剰状態はいましばらく継続する。需給要因からいけば、価格は低位安定だ。
だが、市場は思惑で動く。
市場が動くことを喜ぶ市場参加者も多い。
だから、OPEC総会の結果がどうであれ、市場はふたたび動くのだろうな。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年6月2日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。