気が付いたらNYMEXにおけるWTIの取引量は、5月19日(木)に10億バレルを割り込んでから約2週間、7~8億バレルで推移している。市場参加者は盛り上がっていないようだ(世界全体の原油生産量は約9000万バレル/日)。
一方、Open Interest(未決済取引残高)は、取引量の減少と共に下落傾向にあったが、5月23日(月)に16億2200万バレルとなって以来、少しずつ増え始め、6月6日(月)終了時には17億2500万バレルまで回復している。密かにポジションを増やしている参加者がいることの証左だろう。
なお、先週末(6月3日)の米国陸上掘削リグの稼働数は前週比8基増の382基となっている。
今朝のFTは “Oil prices climb on weaker dollar outlook and supply disruption” (June 6, 2016 5:11pm) と “Lukoil raises spending to boost output after price rebound” (June 6, 2016 6:25opm) という記事を掲載している。
前者は、ドル安傾向に加え、リビア、カナダ、ベネズエラ、ナイジェリアでの生産阻害がイランの増産を相殺していることに加え、さらには米国のデータ会社Genscapeが、先週末のクッシングにおける原油在庫が100万バレル以上減少したと発表したこと、前回のOPEC総会が生産水準については何の合意もみられなかったものの「団結」の可能性を感じさせたことなどが好感され、原油価格は7ヶ月ぶりの高値水準に回復していると報じている。
そして「世界の目はアメリカの動向に注目している。条件の良い場所でのリグ稼働数が増えている兆候がある」というAdam Longson (Morgan Stanleyのオイルアナリスト)の言葉を紹介して記事を終えている。
後者は、ロシア政府のコントロール下にはないLukoilの財務責任者 Paul Zhdanovが投資家に説明した内容を次のように報じている。すなわち、ロシア第2位の石油会社であるLukoilの原油生産量は減少しており、2016年第1四半期は前年同期比3%の減少、特に西シベリアは8.4%の減少だった。この下落傾向を抑えるために、価格が戻ったこともあり、西シベリアのbrown field (古く、生産減退の激しい油田)での投資を増やす。今年の生産量は減少するが来年は新規のプロジェクトの立ち上がりもあり増加するだろう。なお、2016年第1四半期の純益は前年同期比58.8%減の430億ルーブル(約6億6000万ドル)だった。そして記事は「同社の2016年資本投資(capex)は、ルーブルベースで前年並み」とのMr.Zhdanovの発言で締めている。
これらの情報を総合的に考えると、市場のボラティリティ(価格変動の可能性)が低くなっているのは間違いがないようだ。市場は次のニュースを待っている。
一方、50ドル程度で価格が安定すると、DUC(掘削済み未仕上げ)坑井の生産移行が静かに進行する可能性がある。これは掘削リグを使わないため、業界における噂くらいしか情報源がないため、なかなか把握できないだろう。あるいは、作業に必要な要員を確保する動きがどこかでわかるのだろうか。それとも、EIAが発表する生産速報を追いかけるしかないのだろうか。掘削リグの稼働数増加の前に、きっとこの動きがあるはずだ。
需要は順調に増え続けるだろう。だが、その速度は決して早くはない。供給量が需要量を上回っている状況は、前述した供給阻害要因を除くと、厳然として存在している。
イランは増産・輸出増を進めている。
このように考えると、供給阻害が少しでも和らぐと、価格は一度下落するだろう。たとえば山火事の影響によるカナダのオイルサンドの生産減少は、すぐにも快方に向かうのではなかろうか?
だが、ベネズエラ、ナイジェリア、リビアの現状が好転するとも考えにくい。
また、FRB(連邦準備制度理事会)が利上げを決定し、為替がドル高いに転ずると、原油価格は下落する可能性を秘めている。
うーむ、わからない!
あえて言えば、これから一度下落し、それから上昇基調に転ずるのだろうな。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年6月7日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。