原油の埋蔵量は、技術革新と経済性の向上により成長するものだ、と常々語ってきた。あの「今でしょ!」の林先生ですら、そう言っていた(『林先生が驚く初耳学!』2016年5月22日放映参照)。
ところが、経済性が悪くなれば、縮まることもあるのだ。
正確に言うと、消費した分を補えないほどにしか成長しないこともある、ということだ。
このほど発表された「BP統計集2016(BP Statistical Review of World Energy June 2016)」によると、2015年末の世界合計埋蔵量は前年比24億バレル減少の1兆6976億バレルだった。2015年の生産量は日量9167万バレルだったから、2014年末1兆7000億バレルの埋蔵量から、1年間で335億バレル(9167x365)だけ生産・消費したことになる。つまり、「成長した」埋蔵量は生産・消費量より24億バレル少ない、311億バレルでしかなかった、ということだ。
埋蔵量が前年比減少するのは、BPが統計集を発表し始めた1952年(1951年データ)以来、1998年が最初で、今回が2度目なのだそうだ。共に石油開発へのCAPEX(資本投資)が大幅に減少した結果だろう。
1998年は、筆者が「ジャカルタの悲劇」(詳細は6月20日刊行の『原油暴落の謎を解く』参照)と呼んでいる1997年末のジャカルタOPEC総会で、需要動向を読み間違えて生産枠を増やしてしまい、その結果原油価格が暴落し、今日のスーパーメジャーが誕生した石油業界再偏につながった年だ。
2015年末の埋蔵量は前年末対比減少しているが、10年前の2005年末対比では3200億バレル、24%増で、R/P Ratio(可採年数)は50.7年となっている。心配する必要はまったくない。
世界最大のベネズエラの埋蔵量は前年末対比ほぼ横ばいだった(3000億バレル→3009億バレル)。これは、BPがまだ「低価格がニューノーマル」とは認識していないことの証左だろう。
サウジが2位で2666億バレル(2014年末2670億バレル)、カナダが前年末と同数量の1722億バレルで3位となっている。
主要産油国の中で落ち込みが激しいのは、ブラジルの▲32億バレル(162→130億バレル)であり、逆に増加が大きいのはノルウエーの+15億バレル(65→80億バレル)である。
ロシアは、95末1136億バレル、05末1044億バレル、14末1032億バレル、15末1024億バレルと減少傾向が続いている。ちなみに15末の保有埋蔵量は世界第7位だ。
ちなみにOPECが占める比率は、14末の75.4%から71.4%へと減少している。
興味深いのは、昨年の統計集では記載されていなかったカナダのオイルサンドとベネズエラの超重質油(オリノコベルト)の数量が、特に注記されていることだ。
オイルサンドは1662億バレルで、カナダの保有埋蔵量の98.6%、超重質油は2223億バレルでベネズエラの保有埋蔵量の73.9%を占めている。
この注記は何を意味しているのだろうか?
もし、価格低迷が長引くと、両国の保有埋蔵量の下方修正がありえますよ、ということだろうか?
統計データは、埋蔵量だけでも興味はつきない。
「BP統計集2016」をじっくり読み込んでいくと、もっと興味深い事実が浮かび上がってくるのだろうな。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年6月9日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。