銃を手にした男による財テク番組占拠事件とその裏側の金融界の闇とからくりを暴く異色のサスペンス「マネーモンスター」。監督としての手腕も高く評価されるオスカー女優のジョディ・フォスターは、今まで家族をテーマにした作品を作ってきたが、今回はガラリと趣向を変えて、劇場型犯罪による金融サスペンスという新しいジャンルに挑んでいる。リーの軽いノリの財テク番組を信じて全財産を失ったという、いわば逆恨みに思えた犯人カイルと、次第に明らかになる株式相場の裏の犯罪が明らかになるにつれ、事態は二転三転。占拠事件の行方は映画をみて確かめてもらうとして、ジョディ監督の演出は実にクレバーだ。軽薄だが憎めないリーを好演するジョージ・クルーニー、知的でやり手のプロデューサーを静かに熱演するジュリア・ロバーツの二大スターの華やかさでグッと観客を引き付け、世界中の投資家がかたずをのんで見守る金融サスペンスを分かりやすく活写する手際の良さがいい。
女性キャラの演出に光るものがあるのは、フェミニストで知られるジョディならでは。特に、次第に同情を集めつつあった犯人カイルの説得にあたるはずの恋人のブチ切れ演出には、思わずうなった。さらに、自分は人気もので、この作戦ならば事件を見守る視聴者(投資家)を動かせると踏んだリーの秘策の誤算や、韓国やアイスランドに散らばる頭脳を総動員して情報を集めるなどの同時代性も共感できる。ほぼリアルタイムで物語が進む99分の短さゆえに、終盤が少々駆け足だが、苦い結末の後に、リーとパティが互いへの信頼と感謝をみせるシークエンスに優しさがにじみ出ていた。監督ジョディ・フォスターの手腕に拍手!である。
【75点】
(原題「MONEY MONSTER」)
(アメリカ/ジョディ・フォスター監督/ジョージ・クルーニー、ジュリア・ロバーツ、ジャック・オコンネル、他)
(リアルタイム度:★★★★☆)
この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年6月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。