報道ステーションの「安倍首相はヒトラーだ」というキャンペーンが、ギャラクシー賞の大賞を受賞したそうだ。これは新聞協会賞のような放送業界の身内の賞で、左翼的な番組が受賞するのも似ているが、これは通俗的なファシズム理解の典型だ。
ヒトラーは民衆を扇動して政権を乗っ取ったが、日本の軍国主義を指導したのは彼のようなアウトサイダーではなく、岸信介などの革新官僚と呼ばれるエリートだった。彼らは陸軍統制派と共同で、満州国で実験した国家社会主義を「大東亜」で実現しようとしたのだ。その意味ではファシズムというより社会主義革命に近い。
この後もアナロジーが続くとすれば、国債の日銀引き受け(財政ファイナンス)で財政が際限なく膨張し、それを止めようとする財務相は暗殺される。インフレが始まるので物価統制令がしかれ、資本逃避に対しては預金封鎖が行なわれる。
このような暴走に最後まで反対したのは、共産党ではない。彼らはマイナーな組織で、1935年ごろには壊滅した。社会大衆党などの無産政党は戦争に協力し、大政翼賛会に真っ先に合流した。そして翼賛体制に「みこし」としてかつがれたのが近衛文麿だった。安倍氏が似ているのは、ヒトラーではなく近衛である。野党まで増税延期法案を出すのも、大政翼賛会に似てきた。
国家社会主義に抵抗を続けたのは、自由主義者と財閥だった。彼らを支持母体とする民政党が平和外交や健全財政主義をとなえたのは、納税者の党として軍備拡大をきらったからだ。しかし赤字国債という「打ち出の小槌」を得た軍部は税収の制約を超えて軍備を拡大し、民政党も大政翼賛会に飲み込まれた。
最近、安倍政権に財界が異議をとなえ始めた。経済同友会の小林代表幹事は「こんなに強い政権で増税できなければ、他の政権ではできない」と批判し、日商の三村会頭は「2年半後、再び上げられないようなら日本は財政破綻する」と懸念を示した。日銀のマイナス金利に対しても、三菱東京UFJをはじめ銀行業界が公然と批判を始めた。
財政ファイナンスで「GDP600兆円」をめざす安倍政権は、日本経済を「焼け野原」にする点では、かつての軍部と同じだ。テレビ朝日のようなマスコミは、そのお先棒をかついだ共犯者だった。政府の暴走に歯止めをかけることができるのは、納税者としての自覚をもつ国民だけである。