「一億総活躍社会」の実現に向けた工程表が、6月2日、閣議決定された。ところで、「一億総活躍社会」とは、どんな社会なのか、具体的に何をすれば実現できるのか、国民の多くが疑問に思っているのではないだろうか。そこで、この「一億総活躍社会の実現」の責任者である加藤勝信・一億総活躍担当大臣に僕は話を聞いた。
2015年度の日本のGDPは、約500兆円。2020年までに約600兆円にすると政府は目標に掲げている。この100兆円は、どうやって伸ばすのか。
まず、ビッグ・データや人工知能(AI)で、第4次産業革命を起こす。ここで約30兆円を見込む。次は、いま日本のGDPの約7割を占めるサービス産業、これもまたAIを使って活性化させる。ここでも約30兆円を伸ばす。ほかに保健、医療、医薬品分野で約10兆円だ。
そして、「観光」である。2015年、日本を訪れた外国人観光客は約2000万人だった。これを4000万人、さらには6000万人にしようというのだ。円安効果や東京オリンピックもある。大幅な増加を実現できると踏んだのだろう。観光で、やはり10兆円の伸びを見込んでいる。
そして、なんと、これらの方策を実現させないと、2030年には約735万もの人が仕事を失う、と推測されているのだ。だが、これらの目論見がうまくいけば、失業者は161万人ですむ。
たとえ161万人におさえられたとしても、たいへんな数字ではないか、と僕は驚いた。だが、今後の人口減少を勘案すると、妥当な数らしい。
安倍首相は、これらの産業を発展させないといけない、という強い危機感を抱いている。「日本の企業が世界の下請け化する」と懸念しているそうだ。にわかには信じがたい話だが、一部の産業ではすでに、「日本の下請け化」は進んでいる。
例えばゲーム産業だ。かつてニンテンドーやソニーはゲーム機を開発し、魅力的なソフトをたくさん作って世界を席巻した。世界のゲーム産業を牽引し、我が世の春を謳歌していたのだ。ところが、いまや、アップルのiPhoneが代表する、「スマホ」の時代である。ゲームをしたい人は自分のスマホにインターネットを介してダウンロードすればよい。ニンテンドー、ソニーの時代は終わったのだ。ゲームはインターネットの時代に移った。そのインターネットの中心にいるのはグーグルである。
日本経済の屋台骨を支えてきた産業のひとつが、トヨタ、ホンダ、日産といった自動車産業だ。だが、この自動車産業も、近い将来、グーグルが産業の中心になる恐れがある。
グーグルは、「自動運転」の研究を世界に先駆けて始めている。すでに2010年には、自動運転車を発表しているのだ。ゆくゆくは、自動運転ソフトの世界基準を作ろうとしているそうだ。危機感をおぼえたトヨタは、巻き返しをはかろうと2016年1月、シリコンバレーに研究施設を設立している。
当然ながら、経産省もこうした危機感を共有している。省内の資料には、日本産業の「小作人化」という強烈な表現さえつかわれている。
世界の苛烈な競争のなかで、日本は生き残れるのか。失業者161万人という理想に、うまく着地できるのか。帰趨は、企業の力はもちろんだが、政府の政策にかかっている。
編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2016年6月13日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。