オバマのイスラーム教への「真意」

池内 恵

(THE ATLANTIC.COM)What Obama Actually Thinks About Radical Islam
http://www.theatlantic.com/international/archive/2016/06/obama-radical-islam/487079/

思った通りの議論が早速出てきました。
昨夜のポストで書いたことですが、オバマのイスラーム教に対する「真意」はかなり厳しい。

ただしそれを大統領として言う時はいい方に気をつけないと、大多数の平和的な生活をしているイスラーム教徒を疎外し、偏見や対立を煽ってしまいかねない。また、真のイスラーム解釈をすればリベラルになる、と思い込んでいるリベラル派の支持層が離反してします。

かといって、明らかに存在する、かなり支配的な強硬な教義解釈について、その存在を否定していると、トランプ的な「本当のことを言おう」といって一気に排斥に持っていく勢力を利してしまう。そのため、「真意」を、すでに今年4月のアトランティック誌の有名な「オバマ・ドクトリン」インタビューを記事にした、腹心とも言える中東通のジャーナリスト(リベラルでイスラエルに対して是々非々・若干批判的なユダヤ系)のジェフリー・ゴールドバーグが、解説してみせた。トランプの批判と、左派リベラル派の批判の両方に反論して、それらよりもオバマの立場が適切であると論じています。

この記事は明らかに、オバマの「表」の発言では抑制的にしてあること、つまりイスラーム教の支配的な教義解釈への批判を、より明確にしている。この「裏」の真意をゴールドバーグに語らせることで、トランプ的な批判への反論を試み、かつ足を引っ張ってくるリベラル派に釘を刺しているようだ。

4月のアトランティック誌の「オバマ・ドクトリン」インタビューはオバマの撤退・転進路線を支える戦略思想を開示したものとして広く知られたが、その裏には、イスラーム教の教義と、特にその中東、中でもアラブ世界での支配的な解釈に対する、米国のリベラル派とはかなり違ったオバマの認識が示されている。これについては、アラブ世界から、またリベラル派の中で気づいた人からは、反論があった。しかしオバマから言えば、それはバラク・フセインという名前を背負い、宗教法的にはまぎれもなくイスラーム教徒と規定される父を持ちながら、リベラルなキリスト教徒であるという自身の生い立ちや信条、インドネシアで育ったという経験からもたらされた、信念だろう。

4月のアトランティックの記事はここから。
これを読んで、今回のゴールドバーグの記事で強調されている意味合いを読み取ることができて当然だと私は思うのだが、どうやらアメリカ研究者も、イスラーム研究者も、読み取れないようである。私がやることはまだまだ多い、と思う。また一般的に行って、外国研究者は、子供のお使いではないのだから、「適切な時期が来るまではあまりはっきり言わないことにしている」ことは読み取れるようになるべきだと思う。明確に行ってくれるまで分からないのでは困ります。明確に言われても分からない人も多いのだが、それはまた別の問題。

要点はここですね。

Obama, in my reading, does not—contra his right-leaning critics—suffer illusions about the pathologies afflicting the broader Muslim world. If anything, his pessimism on matters related to the dysfunctions of Muslim states, and to the inability of the umma—the worldwide community of Muslims—to contain and ultimately neutralize the extremist elements in its midst, has, at times, an almost-paralyzing effect on him. The president has come to the conclusion (as I outlined in my recent Atlantic cover story, “The Obama Doctrine”) that the underlying problems afflicting Islam are too deep, and too resistant to American intervention, to warrant implementation of the sort of policies that his critics, including his critics in foreign-policy think tanks, demand.

ゴールドバーグは前回のインタビューから抜粋して、この部分を強調する。

“There is … the need for Islam as a whole to challenge that interpretation of Islam, to isolate it, and to undergo a vigorous discussion within their community about how Islam works as part of a peaceful, modern society,” Obama told me.

このほか、オバマがどのように微妙に政治的に適切な言葉の使い方をしているか(このような厳しい認識をしつつ「過激主義イスラーム」といった言葉を極力避けるなど)、ゴールドバーグは解説している。

別に腹心じゃなくても、注意深く読んでくれば分かる話なのですが、当然アメリカ人でも大部分の人は注意深く読まないか読んでも理解できないか、歩留まりが悪いので、今「過激主義イスラーム」を政治家としてどう表現するかが大統領選挙を左右するほど重要な政治課題になりかけているので、方向付けを図っているのですね。言葉って重要です。

まあこれだけ懇切に議論しても、トランプ支持派やキリスト教原理主義派は「オバマは隠れイスラーム教徒だ!」と叫び、世俗主義リベラル派は「真のイスラームはリベラルだ」と言い続けることが予想されるが、真ん中あたりでどっちとも決めかねてじっくり考えて迷っている人たちのうちどれだけを中道に留められるかが勝負ですから。


編集部より:この記事は、池内恵氏のFacebook投稿 2016年6月15日の記事を転載させていただきました。転載を快諾された池内氏に御礼申し上げます。