2つのテロ事件が示す米国の変化

米南部フロリダ州オーランドで12日未明、オマル・マティーン容疑者(29)が同性愛者が集まるナイトクラブ内で自動小銃を乱射し、49人を殺し、53人に重軽傷を負わせる大惨事が起きた。米犯罪史上、一人の人間が殺害した数では最悪のテロ事件となった。

マティ―ン容疑者がイスラム過激派テロ組織(IS)の聖戦呼びかけに応じ、単独でテロを実施した可能性が高まってきている。米国は現在、大統領選の最中だけに、同テロ事件はさまざま影響を各方面に与えている。

そこで米史上最悪のテロ事件、米国内多発テロ事件(9・11テロ事件)とオーランドの銃乱射テロ事件とを比較しながら、2つのテロ事件が示す米国社会の変化について少し考えた。

オーランドの銃乱射テロ事件は同性愛者のナイトクラブで生じたことから、性少数者(LGBT)へのテロだと受け取られ、性的少数者への連帯の声が上がる一方、犯人がアフガニスタン出身の移民家庭育ちであることから、これまでの政府の移民政策への批判の声が聞かれる。同時に、犯人が自動小銃で多数の人々を殺傷したことから銃規制の声が再び高まっている。ホワイトハウスで12日、オーランドテロ事件を受け緊急表明を出したオバマ米大統領もその一人だ。

すなわち、オーランド乱射テロ事件では、①LGBTへの連帯、②イスラム教徒を含む移住政策の見直し、③銃の規制問題―の3点が争点として浮かび上がっているわけだ。大統領選候補者の観点からみれば、民主党候補者クリントン氏は①と③を、共和党のトランプ氏は②を争点に取り上げている、といった具合だ。

2001年9月11日の米国内多発テロ事件は3000人を超える米国民が犠牲となった。国際テロ組織「アルカイダ」系テロリストは米国のシンボルの一つ、世界貿易センタービルに旅客機を衝突させ、ビルを崩壊させた。ブッシュ政権はその直後、テロ対策を最緊急政治課題に掲げ、イスラム過激派テロ組織への戦闘を開始した。9・11テロ事件は米国の民主主義、自由への挑戦と受け取られ、米国民はブッシュ政権を支援した。少なくとも、米国民、社会は当時、対テロで一致していた。

一方、オーランド乱射テロ事件は国内で育った過激派テロリスト(ホームグロウン)によって引き起こされた。その襲撃ターゲットは世界貿易センタービルではなく、ゲイバーだった。換言すれば、9・11テロが米国のシンボルをターゲットとしていたが、オーランドのテロ事件は米国社会の特定グループ(同性愛者)に向けられた(本人も同性愛者だったという情報もある)。

オバマ政権下で連邦最高裁判所は同性婚を合憲と判断した。それゆえ、後者のテロ事件は米国を狙ったものというより、オバマ政権への攻撃とも読めるわけだ。

オーランド銃乱射テロ事件直後、オバマ大統領はイスラム系過激派問題にはほとんど言及せず、もっぱら①と③の問題に焦点を合わせた表明を発表したのは偶然ではないだろう。オバマ大統領はオーランドのテロリストの牙が自身の政策に向かられていることを感じたはずだ。

9・11テロ事件からまもなく15年目を迎えるが、国内のテロリストは今回、病む米社会の弱点に攻撃をかけてきたのだ。米国のシンボルは、国際テロリストにとって「世界貿易センタービル」だったが、ホームグロウンテロリストにとってそれはゲイバーだったのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年6月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。