6月14、15日に開催されたFOMCでは全員一致で金融政策の現状維持を決定した。前回利上げを主張し反対票を投じたカンザスシティー連銀のジョージ総裁も今回は賛成票を投じた。
イエレン議長は会見で、これまでの第2四半期の経済指標は、成長がかなり持ち直していることを示唆しており、緩やかなペースで拡大するとの認識を維持した。利上げに関してFOMCは適切と考えれば、今後数か月中にためらわず行動するとし、次回会合、次々回会合と特定するのは心地悪いが、可能性はあるとして、早ければ7月のFOMCで利上げを検討する可能性があることを示唆した(ロイターの記事より一部引用)。
そして、海外情勢の不透明性が大きいとし、英国の欧州連合離脱(ブレグジット)問題では、国民投票の結果が将来の政策を決定する上で考慮する要因となると指摘した。つまり今回、利上げが見送られた背景としては英国の国民投票を控えて市場がリスク回避のような動きを強めていたことが挙げられよう。
歴史にもしはありえないが、もし英国の国民投票に対して離脱派の勢いがこれほど盛り上がらなければ、今回のFOMCで利上げが決定されていた可能性はある。しかし、ブレグジット問題に対して市場が神経質になっているばかりでなく、現実に離脱の可能性も出てきたことにより、それによる世界的な金融経済への影響が読みづらくなっているため、動くに動けなかった面があろう。もちろん5月の雇用統計の非農業雇用者数をみてとの判断もあったのかもしれない。
私はFRBに関しては昨年12月の利上げから、約半年程度の期間を置いて追加利上げをすると見ていた。これは2006年7月の日銀のゼロ金利解除から次の利上げとなる2007年2月までかなりの期間を置いていた事例があり、FRBも追加利上げには慎重になるであろうと見ていたためである。ただし、スタンスとしてはリーマン並みのショックが起きない限りは、年1回か2回の利上げペースを維持してくるとみていた。そして、利上げをするタイミングとしては議長会見のあるFOMCの方が説明がスムーズにいくことで6月の可能性が高いとみていた。しかし、残念ながらその見通しは外れたことになる。ただし、議長会見の予定はないが、6月の雇用統計などを確認して、7月のFOMCでの利上げの可能性はまだ残っているとみている。
英国の国民投票を控えて動けないということについては、日銀も同様かと思われる。日銀の場合はむろん利上げではなく、追加緩和となる。今回は現状維持となったが、目標から遠ざかっている物価指標を睨んでの追加緩和に対する検討を市場は予想しており、7月に追加緩和をするとの見方が多いようである。
ただし、日銀の追加緩和についてはその手段を意識するとかなり難しいはずである。日銀は異例ともいえる任期の長さとなっている雨宮理事、内田企画局長、正木企画課長といういわば異次元緩和の参謀たちを中心に、果たしてこの次にどのような手立てを打ってくるのかは想像できないが、日銀はすでに八方塞がりになっているのではなかろうか。
金利という面からはマイナス金利政策についてはメガバンクや生保の一角、さらには地銀などからも批判的な声が出ている。選挙を控えて政府もマイナス金利の深掘りに対しては容認しづらいのではなかろうか。しかも波及経路となるはずの長期金利はすでにマイナス0.2%台に低下している。量については国債買入の10、20兆円の増額とかは不可能ではないが、国債買入の未達が現実化してくる。質という面でその他の資産買入の増額だけでは、いわゆる逐次投入と認識される懸念があるし、市場規模も大きくはないため限界がある。
つまり三次元の緩和方式のいずれも、かなり難しいと見ざるを得ない。それとも新たな次元をひとつ開拓してくるというのであれば別であるが、私の想像力ではその新たな次元となる施策が思い浮かばないのである。ちなみに米国債の買入という手段については、大統領選挙も控え米国の政府サイドが為替介入も含めて、よほどの事態とならない限りは容認するとは思えない。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年6月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。