VLSIシンポジウムで論文を発表するためにハワイに来ています。
今回は「データの属性を自ら判断する賢いメモリ」を発表します。
「TLCフラッシュメモリーをデータセンターに 中央大学がデータの属性を自ら判別する“賢い”メモリーを開発」
企業から大学に移ってから9年近くたちますが、今までやってきたことは、この発表のように、ハードに最適なソフトを作ること。
大学に移った当初はかつての専門であるハードだけをやっていては、企業に負けるだろうと思いました。かつての企業に居た時の自分に負ける、と言っても良いでしょう。
大学というリソースが貧弱な環境(企業に比べて)では、新しい価値を作るには分野を越境するしかない、と思いソフトを手がけるようになりました。
ただ、ソフトのど真ん中の研究をしてしまったらソフトの専門家に勝てるわけもない。あくまでもハードの特徴を活かすソフトの研究です。
そういった、サバイバルのために始めた分野の融合、境界分野の研究ですが、これが今後の技術の潮流になっていくのかな、とも最近は感じています。
先ごろグーグルがディープラーニングを高速に実行するハードウェア(LSIのカスタムチップ)であるTPUを発表しました。
これからはTPUのように、AIなどを使った高度な制御、ソフトとハードウェアが融合していくのでしょう。
学会では今日、グーグルからAIアクセラレータに関する講演「Enabling Future Progress in Machine-Learning」を聞きました。
まだTPU自体は話してくれませんでしたが、これからは
「機械学習、ニューロサイエンス、ハードウエアの知見・コミュニティの融合(Connecting dotsと表現)が必要だ」
とグーグルの講演者は言っていました。
Connecting dotsというのはSteve Jobsがスタンフォード大学の卒業式の時に語った有名なフレーズです。
それぞれ独立して見える点(たとえば技術分野)と点を結びつける線をひくことで価値が生まれる。
ジョブズの場合は、大学中退後に大学にもぐりこんで受講したCalligraphyがマックの美しいフォントに結びつきました。
ちなみにグーグルの講演者(Olivier Temamさん)自身が大学と企業を越境していて、なかなか魅力的な方でした。
私がやっているソフトとハードの融合も、今から振り返るとConnecting dotsでした。
それぞれ独立して発展してきた複数の分野を理解し、融合するのは決して簡単なことではありません。
しかし、難しいからこそ誰もやっていないし、チャンスが大きい領域である可能性が高い。
果たして分野の融合、境界領域が、前人未踏の豊かな土地なのか、それとも不毛な土地なのかは、やってみないとわかりません。
ただ、トランジスタの微細化・ムーアの法則が減速している今では、個々の技術を極めていくというタイプの技術開発だけでは限界を迎えつつあります。
むしろ今までバラバラだった分野・技術を繋げて行くことから、大きな価値が生まれるのかもしれませんね。
編集部より:この投稿は、竹内健・中央大理工学部教授の研究室ブログ「竹内研究室の日記」2016年6月16日の記事を転載させていただきました(タイトル改稿)。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「竹内研究室の日記」をご覧ください。