「大失業時代」の足音

岡本 裕明

「大失業時代」といっても日本の話ではありません。中国やインド等新興の人口の多い国での話であります。

フィナンシャルタイムズによるとアメリカで今後20年で現在の半分近くの仕事がコンピューター化されてしまう可能性が高いと指摘しています。しかもこの比率はインドでは3分の2、中国では4分の3に及ぶとされています。

機械化、IT化、AIといった現代の革命は我々の生活をより便利に、そして業務をより効率的にさせてきましたが、多くの犠牲がその背景にあることはあまり語られていないでしょう。日本は幸いにして少子高齢化と成熟化社会となっていますのでこの影響をもっとも受けにくい国家のように見えます。

大失業時代が起きると何が起きるか、ですが、治安の悪化といった目に見える問題と共に少子化が一気に加速してしまいます。中国では一人っ子政策が大きな問題として取り上げられましたが、現代に於いて既に中国の都市部、韓国、台湾などは出生率が危機的状況となっています。

今年5月の時点に於ける合計特殊出生率の世界ランクを見ると世界201の国家、地域で下から台湾、韓国、ポルトガル、香港、マカオ、シンガポール…となっています。日本は184位、中国は164位です。その出生率、台湾は1.16、韓国は1.20と持続不可能な領域を突き進んでいます。たしか、中国も都市部は同じ程度の出生率しかないという調査結果があったはずです。

現在でもここまで下がった出生率が大失業時代を迎えると更に下押しする結果を生むことはほぼ確実と言い切って良いでしょう。理由は所得がなければ結婚が促進されないのです。仮に結婚しても子供をつくる余裕がありません。つまり生活するのに精いっぱいという事態が生じてしまうのです。

いわゆる人類滅亡の話はいろいろありますが、案外論理的に説明でき、且つ本当に起きる可能性が高いのは技術の究極的革新に伴う人口の大減少化かもしれません。勿論、この減少が顕著になるのは今日、明日ではありません。20年後、あるいは50年後に大きな数字として表れてくると思われます。

私が思うことは効率化が生み出す消費の減少であります。例えば今、私が旅行に行こうとしたらエクスペディアのサイトで航空券なりホテルなりを探すでしょう。航空券はもはや旅行代理店でもネットでも同じ金額です。エクスペディアでは安い順番にずらっとその選択肢を並べることが出来ます。

私はその中から自分の思い描くカテゴリーの中で最安値を選択するでしょう。これにより2位以下の候補者は全てビジネス機会を失ったことになり、需要と供給の関係で常にトップ水準の供給能力を持っていないと負けることになります。これは効率化と最適なものの選択を機械が自動選択してしまうことで無駄が全てはじかれてしまうのです。

いわゆる高度成長期になぜ経済が大きく伸びたか、その理由の一つに大いなる無駄が生み出す需要と供給だったのではないでしょうか?経理部にいる女子社員は毎日伝票に勘定科目のハンコを押し続け、課長さんは試算表の作成に勤しんでいました。その為に経理部門は多くの人を抱え、計算が合わないと遅くまで残業します。

しかし今はコンピューターがたちまち処理するため、一人でかつての5人分ぐらいの仕事は出来てしまいます。つまり4人は効率化により弾き飛ばされ別の仕事に就くことになりました。これがさまざまな業種の効率化が進むことで玉突きの様に弾き飛ばされて続けるのが今後20年での業務環境です。

中国、インドは多くの将来性ある人材の予備軍が控えています。今はまだ能力に応じて仕事を分け与えてもらうことが出来ます。今後はそれはなくなります。とすれば、疑問は「スマホが先が、仕事が先か」ともいえるでしょう。

私がトレッドミルで走る間に聞く音楽に初音ミクなどのバーチャルミュージックがあります。機械の独特な歌い方が慣れないと不思議ですが、最近はリアル歌手の歌と織り交ぜ普通に聞いてます。この初音ミク、アメリカでコンサートツアーが始まり、シアトルでは3600人を集めて大盛況だったようです。つまり完全なるバーチャルコンサートに人々が熱狂する意味は芸能人も機械化が進むということでしょうか?

そのうち、あなたの家のリビングにかかるその絵はコンピューターが描いた100万円の価値がある名画となっているかもしれません。その時、人間が本来持っている才能を発揮することが出来なくなるとんでもない事態が生じるわけです。

リアル人間が作った作品を「これ、天然ものよ」となれば今なら笑い話で済まされますが、20年後は普通の会話かもしれません。

今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 6月20日付より