「まだ生きるのか90歳」麻生発言の盲点

高齢者を優遇する政治の結末

麻生副総理・財務相が「90歳になって老後が心配だとか、わけの分からないことを言っている人がテレビに出ていた」と発言したそうです。この「またか暴言か」には続きがあり、「おい、いつまで生きているつもりだよと、思いながらテレビをみていました」です。麻生さん、高齢者を若い世代をよりずっと優遇してきた社会保障制度のあり方が、日本に超高齢化問題をもたらしたことをどうお考えなりますか。

この発言を取り上げた主だった新聞は批判的でしたね。民進党の岡田代表も参院選前ということからか、すぐに飛びつき、「国は年金、医療、介護で高齢者不安に応えなければならない。私は非常に怒っている」と、応じました。共産党の志位委員長は「人間の尊厳をどう考えるのか。血も涙もない」です。短絡的な反応ですね。

麻生発言に多くの人がすぐ関心を示したのは、自分たちの身の回りに90歳以上の高齢者が大勢、いるからでしょう。麻生氏のべらんめえ調に「よくぞ言ってくれた」と反応した人、「それにしても無神経な発言だ」と反応した人など、それぞれでしょうね。

漫談調で済まぬ財政危機

小樽での講演会ついて、発言の一部しか伝えないと、短絡的な反応ばかりを招くことになります。どうやら講演会は漫談調のくだけた内容で、「高齢者はおカネを持っているのだから、もっと使ってよ」あたりに力点を置いていたらしく、「そんなことをいう自分自身が後期高齢者になってしまった」というオチがあり、会場は爆笑したといいます。

だから「とやかく騒ぐことはない」と片づけることもできます。肝心なのは、政治家なら超高齢化、社会保障費、財政危機という3点セットで問題を提起しなければならないということです。せっかく、ベらんめえ調で会場を沸かせたのですから、そこまで聴衆を引っ張っていってほしかったですね。漫談調で済ませられる話ではないはずです。

安倍首相が選挙対策最優先で消費税の10%上げを19年1月まで先送りをするハラを固めた時、財政問題を担当する麻生氏は反対しました。安倍首相は以前にも、選挙公約に先送りを掲げて衆院選(14年12月)に臨み、有権者を喜ばせて圧勝しました。「そのカードをまた、使うなら、改めて解散すべきだ」が麻生氏の主張でした。

消費増税なしに高齢化は乗り切れない

財務相兼務とはいえ、珍しく正論をいうなと思っていましたら、1,2日で安倍首相に譲歩しました。ポーズに過ぎなかったのですかね。90歳の人に向かって「いつまで生きるのだ」というのなら、「高齢化社会はカネがかかるので、消費税を引き上げたかったのに、安倍さんがねえ」とでもオチをつけるべきでした。そうすれば消費増税なしに本当は、高齢化社会を乗り切れないことを聴衆は実感したはずです。

日本人の平均余命(65歳時点)は男女平均で86歳、今後50年で超高齢の90歳に達すると、推計されています。平均が90歳ということは、100歳のお年寄りがどこでもいる状態になりますね。今のままでは社会保障制度は財政的にもちませんね。すでに消費税の先送り(2%分)で、毎年4、5兆円の穴が財政にあいています。

財政は短命、寿命は長命

社会保障費は110兆円を超え、さらに年金、医療、介護のために、高齢者向けにはその7割が割かれています。「だから高齢者はあまり長生きしてくれると、大変なことになる」が財政当局の本音でしょう。麻生氏の心の中にもそういう本音があるのでしょう。富裕層や資産家が多い高齢者世代からも、消費税をとり、社会保障費の原資に当てなければならないのです。

高齢者ほど選挙の投票率が高いというデータがあります。有権者に占める60歳以上の比率は2010年が38%、50年に52%に上がるそうです。政治家はますます高齢者の嫌がる社会保障制度の見直し、税制改革を断行せず、高齢者におもねますから、麻生氏はこれから何度も、「おいいつまで生きているつもりだよ」と言わねばなりません。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年6月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。