講師として登壇する原氏。
それなりにビジネス経験が増えてくると、社内外を問わず登壇の機会が増えてくるものだ。社内であれば「事業説明」「プロジェクト報告」、職責によっては「役員会への参加」などがあるだろう。社外であれば「講演」「セミナー」「研修講師」などの機会がある。
話す機会は自らの評価を高める機会であるともいえる。しかし、ある調査によれば、約8割の日本人は「話すことに対して苦手意識を持っている」ともいわれている。
原 佳弘(以下、原)は、中小企業診断士として研修講師や講演などをおこなっている。一般的な企業向けの研修以外では、企業の販売員トレーニングのベンチマークを探していた時に、野球場のトップ売り子さんが目に入り、彼女たちのエッセンスから、販売員トレーニングのコンテンツなどを開発している。今回は「研修講師の業界事情や選ばれるコツ」について聞いた。
●講師という厳しいヒエラルキーの世界
私も研修講師や講演などに登壇する機会がある。しかしいつも思うのは、この業界の仕組みが非常に分かり難いということである。同じ内容にも関わらず、売れている弁士と売れていない弁士の間には歴然とした格差が存在する。売れている時には、新幹線のグリーンや飛行機は最低でもビジネスクラス(ファーストクラスを所望する人もいるが)、前泊に会場に入りホテルはハイクラスが用意される。ところが売れなくなると、新幹線は自由席、飛行機はエコノミー、前泊は許されなくなる。そこには究極の格差社会が存在する。
原はこの現象を次のように分析している。「講師業界には歴然たる『人口ピラミッド(ヒエラルキー)』が存在します。著名な講師に仕事が集中する傾向があり人気商売です。講師という仕事は、有名な講師が一日何十万円も稼ぐ一方で、仕事がなく、ひっそりと消えていく人もいる厳しい世界です。だからこそ『売り込まないで、選ばれる』『選ばれるための、キッカケと判断材料を用意する』『そのキッカケと材料を、効果的に伝達する』、この3点を抑えなければいけません。」
それでは、人気が殺到して稼いでいる講師は、どこが違うのだろうか。原は選ばれる講師について次のように答えている。「選ばれる講師は、企業側のニーズを理解して、その解決に向けた講義を提案します。これは相手の立場に立った提案ができるということです。」
確かに相手の立場に立った提案というのは簡単なようで難しい。これは、講師やコンサルティングの経験があれば分かる人も多いと思うが、コンテンツは流用したほうが手間はかからない。つまりコンテンツは同一で伝え方を変えるのみである。しかしこのようなやり方は馬脚を現してしまうから得策とはいえない。
●講師のブランディングとはなにか
原は、講師は自らを売り込んではいけないとしている。その理由として次のことをあげている。「講師は売り込みをしてはいけません。講師は先生業です。売り込むと、安く見られてしまうこともあるからです。選んでもらうためのキッカケと、継続させる関係性作りを大事にしていくことをオススメします。」
これは非常に正しい説である。私のまわりでも売れっ子の講師やコンサルタントは売り込みを一切していない。売り込むことで自分のブランディングが阻害されるからである。では講師のブランディングとは何を指すのだろうか。一般的には知名度のことをあらわすことが多いが、原は次のように答えている。
「いいえ。確かに、カリスマ講師のように講師経験が長く、著書も多く、著名な方が有利なことも多いのですが、著書もwebサイトもなく年間300日近く稼働している実力講師も確かに実在します。そのため選ばれるためのマーケティングが必要です」。自分独自のネットワークとコンテンツを確立することがブランディングにつながるようである。
●本日のまとめ
近年セミナー講師が急増しているが、コンスタントに集客できセミナー講師のみで食べていける人はごくわずかである。いわゆる「士業」の人をはじめ、FP、コーチ、カウンセラー、会社員や主婦など、多くの人にとって登壇の機会が増えてきているいま、講師のスキルを学ぶことはその他大勢から抜け出すヒントにつながるかも知れない。
最後に原のメッセージを引用し結びとしたい。「研修講師は厳しい環境にさらされていますが、人に知識やスキル、やる気を与えたり、はたまた人生の転機となるきっかけを与えるなど、仕事のやりがいはとても大きいものだと思います。受講生個人だけでなく、組織や会社全体にインパクトをもたらすことさえあります。」
参考著書
『研修・セミナー講師が企業・研修会社から「選ばれる力」』(同文舘出版)
尾藤克之
コラムニスト
追伸
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