【映画評】葛城事件

「葛城事件」サウンド・トラック

親から受け継いだ小さな金物店を営む葛城清は、念願のマイホームを手に入れ、美しい妻、2人の息子と共に理想の家族を作ったつもりでいた。だが清の強い思いが家族を抑圧し、ついに次男が無差別殺人事件を起こし、死刑囚となってしまう。リストラされたことを言えずに孤立する長男、廃人のようになっていく妻。近所からは、大切なマイホームの壁に、人殺し、死刑などの誹謗中傷の言葉が落書きされている。そんな中、死刑反対の立場から、次男と獄中結婚を望む女性が現れる…。

監督デビュー作「その夜の侍」で評価された、劇団THE SHAMPOO HATの旗揚げメンバーで劇作家である赤堀雅秋監督の監督第二作「葛城事件」。清は、典型的な昭和の父親像を体現していて、根っこの部分は悪い人間ではないのだろう。だが家族を抑圧するその姿勢の裏にあるのは、実は自分は親から受け継いだ店の番をしているだけのちっぽけな人間だとの思い。清は、自分でもそのことを理解していて、なんとか虚勢を張ってコンプレックスを隠したいとの思いがありのだ。みんなで食事に行けば、あからさまに店に文句を言う。父親のあるべき姿を自慢げに演説する。この清という父親のキャラが、あまりに時代錯誤に思えた。時代ははっきりとは提示されていないが、いまどきの若者、いや、中年層でさえ、清に共感するのは難しいだろう。

だが、そんな少しズレた演出を、強引なまでに納得させるのが、今や日本映画界を代表する演技派となった三浦友和の、怪演に近い熱演だ。この人は本当に上手い。たとえ共感はできなくても、感心してしまうと思っていると、最後の最後に意外な変化球が投げられる。絶望した清は、無表情のまま、ある行動にでるのだが、それさえも失敗してしまう、可笑しさ、切なさ、残酷さ。この映画には正解はない。ただ哀しみが漂うだけだ。。

【65点】
(原題「葛城事件」)
(日本/赤堀雅秋監督/三浦友和、南果歩、新井浩文、他)
(家庭崩壊度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年6月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。