一流の経営者は、一流の政治家になれる?

松下幸之助さんは御著書『リーダーを志す君へ―松下政経塾塾長講話録』の中で、次のように言われています――経営といい、政治といっても基本的には一緒だと思いますね。(中略)経営と政治というと、経営の一番大きなものが政治ですね、早く言えば(中略)。だから、経営者として立派な経営者は、立派な政治家になれるし、立派な政治家は、どんな複雑な企業体へいっても立派にちゃんとやっていけると思います。

之は、ある塾生が「私は将来、経営者を目ざしているのですが、塾長は、経営者と政治家の違いをどのようにお考えでしょうか」と問うたのに対し、松下さんが塾長として話された言葉の一部です。松下さんは政治と経営に「相共通性がある」と、こう述べられているのです。

では、米国次期大統領になるかもしれないトランプ氏が大政治家になり得るかとお尋ねしたら、松下さんはどう御答えになられるのか仮に生きておられたら少し伺ってみたいものです。

松下さんからして、そもそもトランプ氏というのは一流の経営者でない、と言われるかもしれません。しかし事実彼は、『米屈指の「不動産王」』と称される人物です。松下さんの御考えが正しいとしたら、トランプ氏に政治をやらせてみても、十分に出来るのではないかということにもなりましょう。

先月30日のブログ『オバマ大統領の功績を称える』でも指摘した通り、仮にトランプ氏が米国の次期大統領に就くとしたら、私は取り分け貿易政策や安保政策が激変するリスクを懸念します。米国の「孤立主義」の再来を思わせるような政策変化は、米国のみならず世界中の多くの国にとっても良い話ではないでしょう。

他方で戦後日本の政界をみるに、日本で大経営者と評された方がその後「立派な政治家」に成られた、といった類は余り聞かれません。そういう中でも例えば嘗て、「絹のハンカチ」と称されて首相候補にまで躍り上った、藤山愛一郎(1897年-1985年)さんという政治家がおられました。必ずしも大経営者とまでは言えませんが、当時の大企業の経営者でした。

彼は我国で「製糖王」と言われた藤山雷太(1863年-1938年)さんの長男で、岸信介内閣で外務大臣を務められ日本「最後の井戸塀政治家」とも呼ばれた品格のある人物でした。しかし、雷太さんの遺産を注ぎ込んで総理総裁に就かんとチャレンジし続け、結局はその夢叶わずでした。

但し、政治と経営に基本「相共通性がある」はある面で事実であると思います。しかし、それが100%当て嵌まるか否かに私は、クエッションマークです。

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