英国の国民投票の結果はEU離脱派が勝利し、世界の金融市場はパニック的な様相を強めた。ちょうど開票時間に開いていた東京市場では日経平均は1000円を大きく超える下げとなり15000円を割り込んだ。ドル円は一時99円台をつけるなど急激な円高も進んだ。
英国EU離脱により英国だけでなく欧州、さらには世界経済への影響が懸念されるとして、25日午後には財務省、金融庁、日銀が会合を開き、今後の対応を協議するそうである。日銀に対しては追加の金融緩和期待も強まる可能性がある。また、24日には急激な円高に対し介入は見送られたが、今後再び円高の勢いが強まることになれば為替介入への期待も強まろう。
しかし、為替介入に対してはドル円などでは協調介入は難しく、単独介入をするにしても米国政府の対応を考えると困難ではないかと思われる。今回は特に日本の国内要因で動いたわけではなく、さらに米国では大統領選挙も控えており、よほどの事態とならない限り政治的な摩擦を生みかねない為替介入は難しい。また、介入したからといって円高の流れを食い止めることが絶対に出来るというわけでもない。
それでは日銀の追加緩和というと、こちらも燃料弾薬はほぼ尽きかけている。黒田総裁が言うようにいくらでも買えるものはまだ存在する。日本国債もあと700兆円程度買えるし、米国債などを買う手段もある。しかし、いずれも現実的には難しい。
日銀は6月15、16日に開催された金融政策決定会合における主な意見を公表した。6月の会合では追加緩和を議事提案した委員はいなかったが、金融政策運営に関する議論のなかでは追加緩和を主張した委員がいた。主な意見の「金融政策運営に関する意見」のなかで、下記の意見があった。
「マクロ経済の安定と「物価安定の目標」の実現のために必要と判断される場合には、追加的な金融緩和策の実施を検討すべきである。」
「生鮮食品とエネルギーを除く消費者物価前年比や予想インフレ率指標に弱さがみられるなど、物価安定目標達成に警戒信号が点滅している。2%達成時期が遅れる蓋然性が高くなる場合には、追加緩和により、2%達成に向けた日本銀行のコミットメントを、人々とマーケットに改めて示す必要がある。」
しかし、今回の主な意見をみても追加緩和のハードルは高いと言わざるを得ない。これは下記のような意見が出ていたためである。
「現状の国債買入れはそれ程長く続けられない。まだやっていけるという段階で、より持続可能なものに転換していく必要がある。」
「これだけ絶大な金利低下効果が出ている以上、現行政策の持続性を確保するため、量のコミットメントについては、これを軟着陸させる方策を考える必要がある。」
「国債を大量に買い入れる現在の政策は、財政政策、金融政策双方の信頼性を損ねているため、見直すべきである。市場実勢からかい離した価格での資産買入れは、最終的に国民の負担に繋がる。」
「サプライズを狙った政策は、金融政策の予見性を大きく低下させ、市場のボラティリティを高めて、政策効果を減じる可能性がある。市場との対話の正常化、双方向での対話の強化を早期に図るべきである。」
「ポートフォリオ・リバランスは、借入需要がそれ程伸びないもとで、大量の資金をヘッジ付外債投資に向かわせ、ドルプレミアムの拡大をもたらしている。日本の投資家の利益が海外の投資家に移転するとともに、外国の債券利回りを引き下げ、金融緩和効果が海外へ流出しているとも言える。」
上記の意見は佐藤委員と木内委員だけのものかどうかはわからない。石田委員などの意見も含まれているかもしれない。いずれにしても量と金利による弊害がコンパクトにまとめられている。執行部としても当然、追加緩和を検討するのであればこのあたりの弊害も考慮する必要がある。
できるだけサプライズを避け、国債買入の増額はそれほど長くは持続可能ではない、マイナス金利についてはすでに長期金利が先んじて低下している環境下、利回りの押し下げ効果は限定的となろう。追加緩和によりドルプレミアムの拡大をもたらす懸念もある。こういった問題をクリアーした上で追加緩和策を検討する必要がある。これはかなりの難問と言わざるを得ないのではなかろうか。
それでも昨年12月の補完措置もあり、最後の切り札というべき国債の10~20兆円程度の買入にETFなどの金融資産の買入増額、マイナス金利の深掘りもセットした3次元の追加緩和をしてくる可能性はないとは言えない。もしくは金融界からも反対のあった日銀貸し出しのマイナス金利の適用なども検討するかもしれない。しかし、この追加緩和は最後に残していた切り札とも言える。これで物価が上がる保証は全くなく、出口も遠ざけることになりかねない。外部要因による円高株安をこれで食い止めるられる保証もない。もし日銀が次に大胆な追加緩和をするのであれば、それはまるで太平洋戦争末期の戦艦大和の出撃となった天一号作戦に例えられることにもなりかねないのではなかろうか。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年6月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。