とある中東専門家が「本当かなぁ」とつぶやいていた掲題に関する記事、気になって読んでみた。Middle East Eye(MEE)という媒体が “Revealed: The UAE backed plan to make young Saudi prince a king” (June 29, 2016 19:02UTC)と題して報じている記事である。Ron Donaghyという人の署名記事となっている。
不勉強にして、このMEEがどのような媒体なのかは知らないが、中東専門家が常時目にしているもののようなので、全くのガセでもないのだろう。
記事の要点は次のようなものだ。
匿名を条件に在サウジの有力な情報筋から得た話として、UAEの皇太子であるMohammed bin Zayed(MBZ)がMBSに次の二つの点をアドバイスした、とのことである。共に、国王としてアメリカに受け入れられるための条件、ということのようだ。
一つは、ワッハーブ主義の支配を止めること、であり、もう一つは、イスラエルとのコミュニケーションチャンネルを強化すること、だそうだ。
前者については、MBSはファトワ(イスラム法解釈に基づく最終決定)を発する権限を持つ ワッハーブ主義の総本山 ”Council of Senior Scholars” を解体するつもりだ、と伝えている。
後者については、イスラエルとの間に国交はないが、イランの核開発を阻止すべく、経済制裁解除をめぐり協調してアメリカに働きかけていたのは公然の秘密だ、と指摘している。
また、MBS自らが近しい人に「年内に国王になるための任務を完了する」と語っている、との情報も伝えている。
記事は “After the Sheikh: The Collapse of the Gulf Monarchies” の著者であるChristopher Davidsonと、ロイターの前リヤド支局長のAndrew Hammondのコメントも紹介している。
Davidsonは、MBSはファイサル国王以来60年に及ぶ「支配のための盟約(governing pact=サウド家が全ての面倒を見るから人民は忠誠を尽くせ)」を打ち破る人物かもしれないが、言うは易く、行うは難しだ、と言っている。
Hammondは、ワッハーブ派の権限を取り上げることは社会のあちらこちらで反発を生み出す。そもそも、いかなる正統性に基づき、宗教界と戦うのか。MBSはそんなことは考えていない、と根本的疑問を呈している。
この記事も紹介しているように、MBSの訪米中、アメリカの情報筋はモハマッド・ビン・ナイーフ(MBN)皇太子が死にそうだ(near to death)との噂を流していた。
ここで紹介されている「情報」も、誰かが何かのために、あえて流しているものなのかな。
最近のサウジ情勢の分析では、Washington Postが伝えている “A 30-year-old Saudi prince could jump-start the kingdom – or dive it off a cliff” (June 28. 2016 by David Ignatius、opinion writer)の方が面白いので、ご興味のある方はこちらをどうぞ。
(ちなみにこの記事が、MBZがMBSのメンターだ、としている。)
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年6月30日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。