このニュースを読んで直感したのは、同じような企業判断が続けば原油価格変動はなだらかなものになるだろう、ということだった。分裂しているリビアの国営石油が共同歩調を取る方向だとのニュースも流れており、当面は「下押し要因」だが、長期的には健全な動きだろうと判断するが、如何なものであろうか。
米系メディアがいち早く報じていたが、今朝目にしたFT記事がよく纏まっているので、要点を整理して紹介しておこう。”Chevron approves $37bn Kazakhstan oilfield expansion” (July 5, 2016 7:36pm) という記事だ。NYのEd Crooksとカザフスタン首都のAlmaty在のJack Farchyの連名記事となっている。FTはアルマティにも特派員を置いているのか!
2014年半ばからの価格低下の中で、多くの巨大プロジェクトが中止されたり延期されたりしている中、シェブロンがこの投資決断をしたことは、シェブロンにとってこのプロジェクトが如何に重要かということを示している。
(カザフスタン最大の)テンギス油田は、シェブロン(50%)、エクソンモービル(25%)、カザフスタンの国営石油会社 KazMunaiGas(20%)、露Lukoil (5%)のコンソーシアムが操業している。昨年の平均生産量は約60万B/Dで、今回の拡張プロジェクトにより2022年からは約26万B/D増の86万B/Dとなる見通しだ。
368億ドルを投資するこのプロジェクトは、現行生産水準を維持するための井戸元圧力管理プロジェクト(wellhead pressure management project)とガス圧入による将来の成長プロジェクト(future growth project)からなっている。増産という面では、サウジアラムコが2013年に行ったShaybahおよびKhurais油田に匹敵する。
2014年半ばからの原油価格下落の中で、2015~2022年の石油ガス開発への資本投資(Capex)は約1兆ドル減少(約22%減)するとWood Mackenzie社は予測しており、シェブロンも2013年には420億ドルを投じたが、2016年は250億ドルの計画だ。
この370億ドルの投資は、石油ガス産業ではこの10年間で最大の民間投資だ。2013年にBPがアゼルバイジャンのShah Denisガス拡張プロジェクトに280億ドル、トタールとNovatek(露)がYamal LNGプロジェクトに269億ドルの投資決断をしているが、これらを上回るものだ。
この拡張プロジェクトに関与している2社の関係者によると、50ドルという最近の原油価格水準がBreak Evenだ、とのこと。油価下落による資機材およびサービスコストの低下も寄与している。
シェブロンの石油ガス部門担当EVPのJay Johnsonは次のように語っている。
「広範なエンジニアリングおよび建設計画を再検討し」「現在のコスト低下のタイミングを捉えた」
(ダニエル・ヤーギンが副会長を務める)IHSの当該地域担当幹部のMatthew Sagersは「テンギスは保証書付きのサラブレッドだ」といい、さらに「プロジェクトの経済性は素晴らしい(wonderful)ものではないが堅実(solid)である」「利益を得るのに、おかしな(ridiculously)ほどの高価格は不要だ」とコメントしている。
うーむ。
この記事の中でさりげなく紹介されている「50ドル」というのが、弊著『原油暴落の謎を解く』の最後で触れた、将来の石油価格予測の「ヒントの塊」の一端なのだろうか?
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年7月6日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。