7月に入り北米はバケーション一色となっています。多分、欧州も同じでしょう。渦中の英国は首相選が進んでいますが、本命メイ内相の首相の座は堅い気がします。そのメイ氏は今年中の英国離脱通告はEUにしないという方針を打ち出していますし、離脱派のジョンソン氏も急ぐ必要はないと言い続けていました。とすればこの夏は思惑だけで英国の離脱の直接的な変化は何も起きないのかもしれません。
市場では英国の没落を予想する声が高いのですが、個人的にはそんなことはないと考えています。日曜日の日経にエマニュエル・トッド氏のインタビュー記事が出ています。「英国が孤立するという考え方はおかしい。英の影響が及ぶ米国、カナダ、オーストラリアなどの人口は欧州より多い。英は非常に早く本当のリーダーとして頭角を現すのではないか」と市場の不安感とは裏腹に比較的ポジティブに捉えています。私も同感です。
ポンドが対米ドルで31年ぶりの安値をつけたとあります。また、ポンドはユーロとパリティになるという見方もあります。ただ、通貨安は同国の貿易収支改善には一役買うとみています。最近は成績がすっかり悪くなった北海油田も改善させればどうにかなるはずですから輸出には潜在的にはプラス要因となるかと思います。また、不動産の先行きを不安視し、一部の不動産ファンドが苦境に陥っています。が、これで不動産価格が下がるようなことがあればそれこそバーゲン状態であります。
世界の不動産市場は通貨安の国の不動産が買われやすい傾向がこの数年顕著であります。カナダはその代表格でありますが、理由は通貨安による海外から見た相対的安さとそれに伴う利回りの向上です。そこから考えれば英国の不動産が今後歯止めなく下がることは考えにくいとみています。
英国とそれを取り巻く様々な話は最悪ケースを織り込む流れのようにもみえます。
それよりイタリアの主要銀行モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナがECB(欧州中央銀行)から不良債権の改善を指摘されました。それ以外にもイタリアには不良債権をしこたま抱え込んだ銀行は数多く、その総額は40兆円規模に上ります。これではむしろ欧州大陸の不安の方が再燃しかねず、EUの体制維持の方がはるかに困難なように思えます。英国は出ていく方なので自由の身です。欧州大陸は守りを強化せねばならず、そのために英国に厳しい要求を突きつけざるを得ない微妙な関係となります。
市場の不安感の台頭は避けられないかもしれません。こんな時に一つでも悪いニュースが出るとドミノ式に転げ落ちる危険性がある点は構えておくべきかと思います。
このところ安全資産への資金の移動が進んでおり、ドル、スイスフラン、円、金といったところにマネーが流れ込んでいます。欧州や英国、日本で更なる金融緩和の可能性、アメリカの利上げ期待の低下から金(ゴールド)は圧倒的な輝きとなっています。チャート的には現在の1オンス1370ドル程度が年末に向けて1500ドルが狙えるところかと思います。また、しばし相場がなかった銀が急速に価格上昇する可能性も指摘されています。
これらのマネーの動きからは実体経済への投資が縮み、ふらつくマネーがニュースに一喜一憂する状態がしばし続くのでしょう。夏休みの時期は凪になりやすいのですが、逆に市場のボリュームが薄い故にボラも高まりやすいリスクをはらんでいます。
個人的には何も起きないでほしいと思っていますし、今の状態では英国からは直接的には何も起きないだろうとみています。しかし、間接的に企業の本社移転の噂や不動産の急激な流動化などが進むと先々大きなトリガーとなり、リーマンショック級のトラブルを生む可能性はあり得ます。また欧州大陸の展開に留意すると同時にこのところあまりニュースや話題がないアメリカの動きもチェックは入れておいた方がよさそうです。
では今日はこのぐらいで。
岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 7月7日付より