欧州危機の第二弾はあるのか?

英国の不動産ファンドが解約希望者の急増により解約を凍結しています。個人的には英国の不動産が必要以上に売りたたかれる意味はないと思っていますが、市場は論理より心理の場合もあり懸念が渦巻きそうです。真夏のサプライズはないに越したことはないと書いたばかりですが、市場心理は急激に悪化しています。

不動産ファンドは個人や投資家、企業、公的資金などから資金を集め、商業不動産やオフィスビルなどに投資をします。都市部の巨大オフィスビルは今や一企業のポートフォリオとして維持できるものではありません。また、不動産は「固定資産」とする発想からより流動性を高めた「投資」にカテゴリーすることにより世界中の多くの不動産はファンドからファンドへと売買が繰り返されています。

例えばバンクーバーのあるホテルの場合、あるカナダ年金ファンドが所有していたのですが、5年程度で5割以上上昇したため、そのファンドの「内規」に従い、自動的に売却の対象となりました。その物件を中東のファンドが購入します。

キーはこの「内規」であります。ファンドによっては不動産市況がどれだけ良くても一定期間内に一定の利益を上げた段階で強制終了となるため、次の買い手には「おいしい残り物」があるのです。事実、この物件はその後2年でさらに数割上がります。ここで中東ファンドは石油価格が下落したことでキャッシュ化せざるを得ず、再び別の意味の「内規」に従い、強制終了となります。これを最後拾ったのが不動産開発会社で一部屋40万ドルという当地の水準としては史上最高額で取得します。(ホテルの売買の場合は往々にして一部屋当たりの売買金額を指標として使います。)

英国に投資している不動産ファンドも直ちにテナントがいなくなったり、賃料が入らなくなるわけではありません。問題は投資している機関投資家の「内規」で「売り」となれば売らざるを得ないのです。ところが不動産ファンドは銀行と同じで一定の解約には応じられるだけの現金は持っていますが、想定外の「取り付け騒ぎ」になるとシャッターを下ろさねばなりません。英国の不動産ファンドには解約の長い行列、その凍結金額は2兆4000億円にも上るとされています。今後、この金額はさらに膨らむはずです。

さて、ファンドに投資している投資家は売りたくても売れず、かつ、そのファンドの投資評価額は下がる可能性があります。それに伴いほかの資産の売却を進め、流動化を図らねばならないのですが、世の中そう簡単にはコトが進まないこともあります。これがあらぬところから火の手が出る最悪のシナリオです。

また、REITのような不動産信託になると投資家のマネーと借入金は半々程度かと思います。そのファンドのパフォーマンスがテナントの解約等で下がれば賃料が入らず、借入金や金利の返済に滞ることになり、REITの安全性に疑問符がついてしまいます。当然ながら資金の出し手である銀行は不良債権化する可能性があるわけですからもっと苦しい状態になります。

欧州の銀行株はすでにボロボロで年初に比べて3割4割安は当たり前です。もちろん英国の離脱問題に端を発したわけではなく、例えば「欧州600銀行指数」は15年半ばをピークに下落の一途をたどっています。今回の英国問題は弱体化した欧州銀行株に強烈な一撃を食らわせる思惑を提供したということでしょうか?

折しも欧州委員会はスペイン、ポルトガルの財政再建が計画通りに進んでいないとのことで制裁勧告が出ました。厳しい姿勢で臨むドイツ等北ヨーロッパ勢と体質を異にする南ヨーロッパのすきま風は英国問題をきっかけに引き金を引くのでしょうか?

悩ましい限りです。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 7月8日付より