大統領職廃止の絶好のチャンス!

オーストリア憲法裁判所が1日、5月22日に実施された大統領選決選投票に不正があったとしてやり直しを命じた。それを受けて、次期投票日が10月2日と決定したばかりだ。ハインツ・フィッシャー大統領は8日、2期、12年間任期を満了してホーフブルク宮殿を去った。新大統領が選出するまで国民議会の3人の議長が大統領職務を代行する。

P4110740
▲オーストリア連邦大統領府(2013年撮影)

3カ月余り、ホーフブルク宮殿の大統領府は主人公が不在となるが、よく考えればこの期間はまたとない絶好のチャンスではないか。“何のチャンスって?”大統領職を廃止する機会だ。

3人の国民議長が大統領の職務を履行できるのなら、3人の議長に3カ月とはいわず、その後も外国貴賓、国家元首を迎えてもらい、必要ならば3人の1人に外国を公式訪問してもらえばいい。ひょっとしたら、連邦首相が現大統領職を兼務すれば、時間と経費が節約できる。あれもこれも前回の大統領選で新大統領が決まらなかったからだ。このような状況は戦後初めてのことだ。その機会を利用しないことはない。

オーストリア国民には発想の転回が求められる。大統領は本当に必要だろうか。前回の決選投票で不正が明らかになり、民主国家の恥をさらしだと冷笑されたばかりだ。独週刊誌シュピーゲルは「オーストリアの恥さらし」というタイトルの記事を発信していた。あれもこれも大統領職が存在するからだ。なければ、選挙経費も浮くし、恥さらしと笑われることもない。いいことずくめではないか。大統領職が廃止されて国家の運営に支障が出るだろうか。

そこで当方は提案したい。思い切って大統領府を廃止したらどうだろうか。前回の選挙で2人の候補者の得票率がほぼ50%ずつ、その差は1%以下という僅差だった。決選投票は国民を文字通り2分してしまった。もし大統領職がなければ、そのような騒動も起きることはないだろう。

もちろん、大統領が国民の直接選挙で選出された1950年以降、名大統領がいなかったわけではない。ルドルフ・キルヒシュレーガー大統領(任期1974~1986年)は人望があった。駐チェコスロバキア大使時代、「プラハの春」が起きた。ウィーンの外務省は査証発給禁止を命じたが、同大使はウィーンに亡命を求める多数のチェコ人に査証を発給し続けた外交官だった。同大使はその後、大統領となったが、国民の信頼は最後まで厚かった。一方、大統領選では夫婦仲のいい姿を有権者にアピールしながら、当選後は離婚し、長年密かに付き合っていた外務省女性と結婚したトーマス・クレスティル大統領(1992~2004年)がいた。退任したフィッシャー大統領は親北朝鮮政治家として有名であり、北朝鮮の欧州拠点構築に少なからず貢献した政治家だった、当方がフィッシャー氏に北朝鮮問題を質問し、カセットでその答えを録音しようとした時、フィッシャー氏は当方のカセットを手で払いのけた人物だ。いずれにしても、仕様がないことだが、当て外れがある。

最後に、オーストリア大統領はオバマ米大統領よりも高給取りだ。名誉職で、ゲストとの会食と会談が主な職務にオーストリア国民は多額の経費を費やしているのだ。

オーストリア国民には、大統領不在中のこの3カ月間、大統領がいなくて困ったことがあったか、それとも何も変わらなかったかを冷静に観察して、アルプスの小国に大統領が本当に必要かを真剣に考えて頂きたい。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年7月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。