日銀は7月28、29日に開く金融政策決定会合後に公表する展望レポートで、春闘での賃上げが勢いを欠いたことや英国のEU離脱決定後の円高を受けて物価上昇の勢いは弱まっていることから、2016年度の消費者物価(除く生鮮食品)上昇率の見通しを前年度比0.5%から0%台前半に引き下げる方向で検討するそうである(時事通信)。
6月30日に発表された5月の全国消費者物価指数は総合で前年比マイナス0.4%、生鮮食料品を除くコア指数で前年比マイナス0.4%、食料及びエネルギーを除くコアコア指数で前年比プラス0.6%となっていた。日銀の物価目標である総合もベンチマークのコア指数も前年比はマイナスの状態であり、物価見通しの引き下げはやむを得ないと思う。これを受けて物価目標の達成時期も4月の展望レポートの「2017年度中」からさらに先送りされる可能性もある。
英国のEU離脱による影響が意識され、イングランド銀行やECBでは追加緩和観測も出ている。日銀も臨時会合を開いて追加緩和を検討するのではないかとの観測も一部に出ていた。ただし、臨時会合の可能性はなくなり、その変わり7月28、29日の通常の金融政策決定会合で追加緩和を検討するのではないかとの期待も強い。
ところが日銀の金融政策に関しては面白いアンケート結果があった。QUICK月次調査<債券>によると、日銀は金融政策をどのように運営すべきかという問いに対し、「緩和策を縮小すべき」が40%を占め最も多くなっていたのである。「現状維持」が28%、「さらに緩和政策を強化すべき」が23%となっていたのである。
これは債券市場関係者によるアンケート結果であるが、べき論として追加緩和でも現状維持でもなく、方向性としては引き締めとも取れる緩和策の縮小を検討すべきとの意見が最も多かったのである。
この場合の緩和策の縮小というのは、国債買入を減少するいわゆるテーパリング、もしくはマイナス金利政策の撤廃を意味しているものと思われる。
これは国債で運用しようにも日銀が大量に買い入れていることや、マイナスの利回りで運用出来ないことによるものとか、日銀のマイナス金利政策により銀行の収益が悪化するためではないかとの指摘もあるかもしれない。それについて完全に否定はできないが、それ以上に現在の日銀の金融政策に対しての危機感を市場参加者が抱いているのではないかと思われるのである。
私も個人的には緩和策を縮小すべきとの意見を持っていたが、これは極めて少数派の意見ではないかと思っていた。ところが今回のアンケート結果を見る限り、少なくとも債券市場参加者の間ではこれが多数派を占めていたのである。
日銀は大胆な金融緩和策により、マネタリーベースはすでに400兆円を越すまでになっている。ところが目標とする物価はマイナス圏にある。つまりマネタリーベースを増加させてもなかなか物価には働かないということになる。しかし、マネタリーベース増加のための大量の国債買入により国債市場の流動性が後退するなどの副作用も生じている。国債の利回りがマイナスということは異常なまでに国債の価格が上昇しているということでもある。その反動がいずれ起きる懸念もある。
日銀は2年という短期決戦で物価目標達成を目論むが、それは達成できず、とにかく緩和で突き進む他にないといった70年数前の日本を彷彿とさせるような状況に陥りつつある。現実を直視した上で債券市場の機能回復のためにも、異常な緩和策から脱することも視野に入れる必要があるのではなかろうか。
もちろんいま日銀がテーパリングを行うこととなれば、かなりのショックが日本の債券市場で起きる懸念がある。しかしそれを先送りすればするほどショックは大きくなるのではとの懸念もある。それが今回りアンケート結果に繋がっていることも考えられる。債券市場参加者による緩和策の縮小を検討すべきとの意見は完全に無視することはできないのではなかろうか。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年7月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。