米韓が8日、米国の最新鋭地上配備型迎撃システム、高高度ミサイル防衛(THAAD)システムを在韓米軍に配置すると決定したことに対し、予想されたことだが、中国は激しく両国批判を展開している。
中国外務省は、「中国の安保利益を害するTHAAD(サード)配備決定に対して強い不満と断固たる反対を表示する」と明らかにする一方、金章洙駐中韓国大使を2日連続で外務省に呼び、不満を表明した。
中国メディアの中には、「THAAD配置と関連した韓国政府機関と企業、政治家への制裁を呼びかける声が聞かれる」という。韓国大手メディア「中央日報」(日本語電子版)は10日、「韓中関係はこんなものだったのか」という見出しで中国世論を紹介しているほどだ。
サード配置決定に対し、韓国側は中国側の反発をある程度予想していただろうが、北京政府の強い抗議に驚きを隠せられないのが本音だろう。ソウルは「THAADは北朝鮮の核とミサイルへの自衛的防御措置」と説明しているが、中国側は納得していない。韓国「朝鮮日報」電子版は10日、「THAAD配置は韓国の主権で決定、中露には堂々と構えよ」という見出しの社説で、韓国政府に「主権国家として堂々と対応すべし」と発破をかけている。
朴槿恵政権の外交は明らかに間違っていた。朴槿恵大統領は就任後、隣国日本を訪問せず、「正しい歴史認識」をモットーに中国側と頻繁に接触し、日本批判を展開させてきた。
その例を挙げてみる。中国黒竜江省のハルビン駅で2014年1月20日、「安重根義士記念館」が一般公開された。韓国側は「韓中の蜜月関係」のピークと感じていたかもしれない(安重根は1909年10月26日、中国・ハルビン駅で伊藤博文初代韓国総監を射殺し、その場で逮捕され、10年3月26日に処刑された)。
朴槿恵大統領は13年6月に訪中した際、習近平国家主席に安重根記念碑の設置を提案した。それを受け、習主席は当時、関係機関に検討を指示した。朴大統領の提案の段階では、「安重根記念碑」の建立だったが、中国側が一方的に“格上げ”して「安重根記念館」を建てた経緯がある。
韓国はその時、中国側の配慮を感謝し、同国外交部当局者は、「韓国政府はハルビン駅に安義士の記念館が開館したことを歓迎し高く評価する」とコメントしているのだ。
韓国は中国が同じ価値観、世界観を共有する国と勘違いしてきた。そして中国共産党政権の反日政策が戦略的であり、状況次第で変わることを忘れてきた。朴槿恵政権は、外交が基本的には国益で動くこと、中国政府が共産党一党独裁国家であること、この2点を忘れ、「正しい歴史認識」という標語に溺れてきたのだ。
その結果、中国側が米韓の在韓米軍へのTHAAD導入決定に抗議した時、北京を対日政策パートナーと考えてきた朴槿恵政権はその激しさに衝撃を受けているわけだ。
日韓両国は慰安婦問題など歴史問題で久しく対立してきた。韓国側はその歴史問題を解決するため価値観、世界観が違う中国と手を結んで喜々としてきたわけだ。中国は重要な国防、戦略的な議題が浮上すれば、韓国との歴史的連携など直ぐに忘れてしまうだろう、という冷静な見方が出来なかった。
韓国は昨年末、慰安婦問題で日本側と「最終的、不可逆的な合意」が実現したばかりだ。日本との関係を早急に修復しなければならない。なぜならば、中国は今、アジアを支配下に置く軍事大国を目指して腐心してきている。韓国は、手痛いダメージを受ける前に、隣国日本との関係がどれだけ貴重であり、日本が同じ戦略的利益を共有するパートナーであるかを理解しなければならない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年7月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。