7月10日に投票が行われた参議院選挙は自民党だけでの単独過半数には届かなかったものの、自民・公明両党では目標としていた61議席を上回り、合わせて70議席を獲得した。憲法改正に前向きな他の党などを加えると、その勢力が参院での三分の二を上回った。
今回の選挙も与党の圧勝という結果となり、安倍氏が党総裁に再登板してから2012年衆院選、2013年参院選、2014年衆院選、そして今回の2016年参院選と自民党は4連勝という結果になった。安倍政権はこれでさらに盤石化するということになる。
今回の選挙の争点はアベノミクスの是非とされた。もちろん国民はアベノミクスだけを意識して投票したわけではないが、結果とすれば国民はアベノミクスと呼ばれる経済政策を支持し、その結果を好意的に判断したということになる。
ただし、そのアベノミクスに対しての関心は次第に薄れてくることが予想される。その主軸であったはずの日銀の金融政策に関して、すでに政府が距離を置くようになってきた。とにかく物価目標2%を達成することが日銀と政府の悲願となっていたが、異次元の緩和をしようと金融政策で物価が簡単に動かせるものではないことをむしろ露見させた。しかし物価は上がらずとも雇用の回復は進み、有効求人倍率の高さなどを示してアベノミクスはいかにも成功しているかのように示している。
実はアベノミクスと呼ばれた無茶な金融政策など打たなくても、世界的なリスク回避により、日本の景気はしっかりし、雇用は同様の回復を示した可能性がある。むしろ以前のようなフレキシブルな金融政策を日銀が継続していたほうが、金融市場をうまくコントロールできていた可能性がある。いまの金融市場は日銀の金融政策に対してかなり懐疑的となったり批判的となってしまっている。日銀が動くとポジティブな反応を示さないどころか、ネガティブな反応を示す可能性も高くなっている。素直に動いているのは国債の利回りだけといった状況ともなりつつある。
今後のアベノミクスの運営については、形式上は財政政策に軸足を移すとみられる。昨日、安倍首相は記者会見でデフレ脱却に向け、内需を下支えできる総合的かつ大胆な経済対策を実施したいと表明した。しかし、バブルの様相を示している国債市場にあまり刺激を与えることは危険も伴うことも予想され、大量の国債増発を伴うような経済政策は打たずに、景気の安定化を図るのではないかと個人的には予想している。安倍政権もアベノミクスという旗印は下ろさなくても、その軸足は次第に憲法改正に向けられるのではなかろうか。
11日にバーナンキ前FRB議長が黒田日銀総裁と合い、12日には安倍首相とも話をするようである。ヘリコプター・ベンと異名を持つベン・バーナンキ氏ではあるが、FRB議長としては現実派であった。バーナンキ議長となってのFRBは、よほどの事態とならない限りは量的緩和策を取るようなことはなく、実際にQEと呼ばれた量的緩和策を導入した際も、FRBは量的緩和という表現を嫌っていたぐらいである。つまり今回の会談でもバーナンキ前議長はヘリコプターマネーを薦めるといったことよりも、中央銀行と市場との対話といったものの重要性を説くことも予想される。いま日銀に必要なのもまさにその点であると思われるためである。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年7月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。