米シェールに競争力あり

読み終わって違和感が残る記事だった。FTのEd Crooksが報じている “US shale secures a competitive advantage” (July 13, 2016 10:53am)というものだ。この違和感はどこから来るのだろう。

FT記事の要点は次のとおりだ。

(業界大手のデータ分析会社)Wood Mackenzieによると、バレルあたり60ドルを前提にすると、USシェールは60%が経済性を確保できるが、深海プロジェクトではせいぜい20%でしかない。つまり向こう2~3年間は、米シェール資産を持つ会社の方が、コストの高い北海や西アフリカ沖合に資産を持つ会社より有利だ。

また同社のMr. Simon Flowersによると、この2年間の価格下落に対し石油開発業界は懸命にコスト削減を実現したが、米シェールが30~40%削減しているのに対し、他のプロジェクトでは10~12%でしかない。このコスト削減の結果、米シェールオイルは2年前にはコストカーブ(業態別に平均コストを比較したもの。たとえば安いものは中東の在来型であり、高いものは深海や北極海)の中位に位置していたが、最近では最低水準グループの方に近づいている。

たとえば投資回収可能水準(break-even)は、テキサス州南部のイーグルフォード地域では平均48ドルだし、テキサス州西部のパーミアン地域内Wolfcamp構造では39ドルに過ぎない。ブラジルの深海は規模が大きいのであるものは経済性があるが、他の高コスト地域は投資を呼び込むことができない。

同社のMr.Angus Rodgerによると、2007~13年のあいだ、大型プロジェクトは年間平均40件ほど立ち上がっていたが、2015年は8件に過ぎなかった。2016年は、シェブロンの368億ドルプロジェクト(カザフスタンのテンギス)があるが、せいぜい10件だろう。

さらに彼は、米シェールは魅力的だが、資金や作業従事者などを手配し、掘削・生産に移行するには時間がかかるので2~3年のあいだには供給不足となり、2019~20年には、80~85ドルに上昇することもありうる、としている。

うーむ。
違和感はどこから来ているのだろうか?
前半と後半の論調が大きく違っているような気がするのだ。

おそらく「量」について記述されていないからだろう。

つまり、60ドル水準で経済性が成り立つシェール埋蔵量の「量」がどの程度なのか、この記事からは分からないからではないだろうか。もし十分な「量」があるならば、Mr. Rodgersの価格予想は成り立たないはずだからだ。

手元の資料によると、米国のシェールオイルの「技術的に回収可能な資源量」は782億バレル(EIA、2015年4月)だが、米国全体の確認埋蔵量は550億バレル(BP統計集2016)となっている。どちらの数字を取っても、世界全体の確認埋蔵量1兆6980億バレル(BP統計集2016)と比べると決して大きなものではない。

どの程度需要が伸びると読むかにもよるのだろうが、必要な追加需要量をすべて米シェールでまかなうことは困難だ、ということなのだろうな。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年7月13日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。