米労働省が発表した米5月雇用動態調査(JOLTS)で求人数は550.0万人と、市場予想の565万人を下回った。2000年の統計開始以来で最高を記録した前月の584.5万人(578.8万人から上方修正)から、5.6%減少。今回は、年初来で最低を示す。なお米5月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は、改定値で従来の3.8万人増から1.1万人増へ引き下げられ2010年9月以降で最低に落ち込んだ。2015年の平均22.9万人増にも届かず。ただし、米6月雇用統計・NFPはホリデー商戦で雇用が膨らんだ2015年10月以来の高水準だった。
新規採用人数は前月比1.0%減の503.6万人と、3ヵ月連続で減少した。2006年11月以来の高水準を遂げた2月から鈍化しつつ、リセッションが開始した2007年12月時点の500万人という大台は20ヵ月連続で超えた。
離職者数は1.3%減の495.2万人となり、3ヵ月連続で減少し4ヵ月ぶりに500万人割れを迎えた。定年や自己都合による退職者は1.2%減の289.5万人となり、4ヵ月ぶり低水準。統計開始以来で最高だった2015年12月の308.8万人から遠ざかっている。解雇者数は2.4%減の166.7万人と、3ヵ月連続で減少し2015年7月以来の低水準だった。
求人数は過去最高も、新規採用者数や離職者数は鈍化。
求人率は3.7%と、年初来で最低に終わった。統計開始以来で最高となる2015年7月の水準に並んだ前月まで3.9%から低下した。民間が同じく統計開始以来の最高である2001年1月の水準に等しく前月の4.2%から落ち込んでいる。民間のうちサービスが弱く、卸売が前月の4.1%から2.5%へ大きく沈んだ。また娯楽・宿泊、貿易・輸送・公益、教育・ヘルスケアなども前月から低下。一方で通信大手ベライゾンがストライキに入り米5月雇用統計では就業者が減少したものの、情報は3.5%で横ばい。専門・サービスは前月の4.6%から4.8%へ上昇した。財生産業も軒並み下振れし、特に製造業が前月の3.1%から2.8%へ落ち込んだ。政府は2.3%で変わらずだった。
就業者に対する新規採用率は前月に続き3.5%と、2014年7月以来の低いレベルにとどまった。2007年10月以来の高水準に並んだ2月の3.8%が遠のきつつある。民間が前月の3.9%から3.8%へ鈍化、2014年6月以来の最低だった。サービスではベライゾンのストライキがたたり情報が前月の3.0%から2.5%へ下振れしたほか専門・サービス、金融、娯楽・宿泊、輸送・倉庫・公益が低下した。財生産業では鉱業・伐採を含め製造業、建設など軒並み下振れ。政府は1.5%と前月の1.6%から下向いた。
自発的および引退、解雇などを含めた離職率は3.4%と、前月の3.5%を下回り2015年10月以来の水準へ低下した。ただ民間は前月の3.8%で変わらず。政府は前月まで6ヵ月連続で1.6%を経て、1.5%へ低下した。自発的離職率は2ヵ月連続で2.0%となり、2~3月に達成した2007年5月以来の高水準となる2.1%を下回った。解雇率は3ヵ月連続で1.2%となり、2000年12月に統計が開始してからの最低となる1.1%にあと一歩のところで踏みとどまっている。
解雇者数の減少は心強いながら、離職者数も弱い。
(作成:My Big Apple NY)
――以上の結果を踏まえ、イエレン・ダッシュボードをおさらいしてみましょう。今回、達成項目は4月に続き9項目中3項目にとどまっています。6項目を達成した2月、5項目だった3月から減少したままです。以下は詳細で、()内の最悪時点とは、金融危機以降での最も弱い数字です。
1)求人率—○
2009年7月(最悪時点) 1.6%
2004-07年平均 3.0%
現時点 3.7%
2)解雇率—○
2009年4月(最悪時点)2.0%
2004-07年平均 1.4%
現時点 1.2%
3)自発的離職率 ×
2010年2月(最悪時点) 1.3%
2004-07年平均 2.1%
現時点 2.0%
4)採用率—×
2009年6月(最悪時点) 2.8%
2004-07年平均 3.8%
現時時点 3.5%
5)非農業部門就労者数—×
2009年3月までの3ヵ月平均(最悪時点) 82.6万人減
2004-07年の3ヵ月平均 16.2万人増
現時点の3ヵ月平均 14.7万人増
6)失業率—○
2009年10月(最悪時点) 10%
2004-07年平均 5.0%
現時点 4.9%
7)不完全失業率—×
2010年4月(最悪時点) 17.2%
2004-07年平均 8.8%
現時点 9.6%
8)長期失業者の割合—×
2010年4月(最悪時点) 45.3%
2004-07年平均 19.1%
現時点 25.8%
9)労働参加率—×
2014年9月(最悪時点) 62.7%
2004-07年平均 66.1%
現時点 62.7%
――米5月雇用動態調査は求人数だけでなく新規採用数も減少、特に後者は3ヵ月連続で落ち込んでおり、雇用増加ペースが失速する可能性を示唆しています。米6月雇用時計・NFPこそ2015年10月以来の高水準でしたが、こちらでご紹介した理由に加え1~3月期に過去2年間と違って豪雪や厳冬に見舞われず、順当に雇用が増加した反動が表れたと考えられます。7月には BREXITの影響も重なり、再び雇用増加ペースが鈍化するのではないでしょうか。景気回復サイクルの長さ、並びに米連邦準備制度利十戒(FRB)のイエレン議長の発言を踏まえても、年内に10万人増にとどまる月が追加で出て来ても、おかしくありません。
(カバー写真:Fabrice Florin/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年7月13日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。