金融庁の裁量行政が、時代遅れの銀行の原因

山田 肇

日本経済新聞に「銀行の営業時間自由に 金融庁「9時~午後3時」緩和」という記事が出ていた。金融庁が銀行法施行規則を近く改正するという。

学生時代に金融機関でアルバイトしていたことがあるが、窓口を閉めた午後3時以降が修羅場だったのを思い出した。3時からその日一日の取引を検算するのだが、ほとんど電子化されていなかった当時は、一円の狂いもなく勘定が合うまで何度も何度も皆でソロバンを弾いていた。5時までに終わらなければ、残業になってしまう。だから、3時で窓口を閉めるのも当然だった。

すべてが電子化された今では、状況はまるで違う。勘定合わせも短時間で済む。営業時間を午後3時までとする理由はなくなったのだから、今回の自由化は当然である。日本経済新聞は好意的に記事を書いているが、なぜ今まで自由化してこなかったのかが僕には疑問だ。

銀行法施行規則第十六条が営業時間に関する規定で、確かに午前9時から午後3時となっている。この施行規則を読むと、ひとつ気づくことがある。十五条は銀行法施行令を根拠とする規定で、十七条は銀行法に基づく規定である。他の規定も大半は法令を根拠としている。これに対して、営業時間を規定した十六条には根拠法令がないのだ。つまり、銀行の営業時間は金融庁が裁量で決めてきたに過ぎない。裁量であればいつでも改正できたのに、ここまで遅れたのはいかがなものか。

富士通総研が若者の金融サービス利用状況を調査した結果を発表している。それによると、高齢世代は約3割が毎月1回以上窓口を利用するが、若者世代で毎月1回以上窓口を利用する割合は1割程度だそうだ。若者には、9時から3時の間に窓口に行く余裕がないのだ。こうして、メガバンクは高齢者の友になっていき、その元凶は金融庁の営業時間規制である。

法令に基づかない裁量行政は排除すべきである。金融庁は第十六条を廃止してはどうか。日本経済新聞も、改正を前向きに評価するだけでなく、遅れの事情をきちんと報道すべきである。