待機児童問題のために、新都知事がするべき8つのこと

駒崎 弘樹

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俺は東京生まれ90年代J-POP育ちの駒崎です。都知事選の候補者が出揃ってきましたが、それぞれ待機児童問題の解決を掲げているのは、喜ばしいことです。

都知事が誰になろうと、東京都の待機児童が日本一多い、という問題は解決しなくてはならない問題で、そしては東京都は重要な役割を演じることができます。以下に新都知事がやるべき政策を「東京待機児童八策」として列挙します。

①保育士の処遇改善(キャリアアップ補助の大幅増額)による保育士不足の解決

現在、都内で保育園がつくりづらい最大の障壁は保育士不足です。通年での有効求人倍率は6倍。昨年11月だけで見ると66にもなります。

保育士資格を持つ人がいないわけではありません。保育所で働く保育士が35万人いるのに対し、保育所で働いていない保育士はその倍の70万人。重労働にも関わらず低賃金なので、資格を持っていても働けないのです。

東京都は舛添都政時代に、国の補助に上乗せして保育士給与を補助する「キャリアアップ補助」を創設しました。舛添都政が子育て分野に残した数少ない実績の一つですが、いかんせん額が不十分なものでした。

これを大幅に拡張することで、保育士処遇が引き上げられ、保育士不足問題を解決することができるでしょう。

②固定資産税の減免による物件不足の解決

杉並区が区立公園の一部を使って保育園をつくろうとしたところ、付近の住民に強く反対される事件がありました。ことほどさように、認可保育園をつくる場所は限られています。しかし、そこは税制である程度解決できます。

アパートを壊して、地域の役にたつ保育園にしたい、と思った土地オーナーがいるとします。アパートのままにしておけば、固定資産税は6分の1に減免されますが、保育所だったらそれはなくなります。

こうしたところに対し、アパート並みの減免措置をとることで、オーナーに保育所に土地を貸し出すインセンティブとなります。固定資産税の決定権は都にあるので、東京都は減免制度を創ることができるのです。

③広い都立公園を利用した積極的開園

都立公園は70近くあり、どれも1ヘクタールを越えていて、大変広い敷地面積を持っています。

http://1manken.hatenablog.com/entry/2015/01/24/131718

基礎自治体と連携し、こうしたところに保育園を積極的に誘致していくことは、待機児童解消策として有効です。

杉並区公園反対運動のようなケースは、公園の4割を利用することによって、事実上公園が使えなくなることを住民が危惧するものでしたが、例えば砧公園は約39万平米あり、100坪の認可園をつくっても、その0.1%程度を占有するに過ぎないのです。

④容積率緩和の条件に保育園設置を入れ込み、劇的量的拡大

東京都は容積率規制が厳しく、「東京23区内で平均1.3階建て、山の手線内に限っても平均2.3階建てに過ぎない」ことは大前研一氏も指摘する通りです。

音喜多都議はこれを受けて、以下のように提言しています。(http://otokitashun.com/blog/daily/11937/

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これを海外と比べてみると、パリ市の都心部は平均6階建ての高さであり、ニューヨーク(マンハッタン)では平均使用容積率が住宅街で約630%、オフィス街のミッドタウンで約1400%となっている。

つまり、都内の容積率基準をパリ・ニューヨーク並に緩和・活用するだけで、東京都は今の数倍の土地を手にすることが事実上可能になります。

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そう、容積率緩和は、東京都が行うことのできる、最強の成長戦略の一つと言えましょう。デベロッパー達は大きなビジネスチャンスに小躍りするでしょう。

そこに、「保育所を設置したら、容積率緩和」という条件を付与することによって、容積率というインセンティブを追うデベロッパー達はこぞって保育所建設に動機付けられるでしょう。新規に建てられる商業ビルやタワーマンションのほぼ全てに保育所が併設されることになっていくのです。

まさに成長とセーフティネットの双方を実現できる策になりましょう。

⑤特区を活用し、小規模保育を全年齢対応に

子ども子育て新制度によって創設された地域型保育(小規模保育・居宅訪問型保育・事業所内保育・家庭的保育)は、開園や運営に柔軟性が高く、待機児童解消に大きく貢献しえます。特に小規模認可保育所は初年度で1655箇所(認可保育所の6%程度)と激増しています。通常の認可園がつくりにくい住宅地等でも開園が可能なため、東京都でも広がっています。

一方で、地域型保育は事業所内保育を例外として、「0~2歳まで」と定められています。これは制度設計の背景に、待機児童の多くが0~2歳までに集中していたこと、3歳以降は幼稚園などに転園することを前提にしていたことがありました。

しかし、都市部においては3歳児でも待機児童が発生していること。幼稚園が3歳児以降の受け皿になっていないこと等があり、前提が崩れています。

そこで、地域型保育(特に小規模保育)でも3歳児以降を受け入れられるように東京都が特区に申請を行います。例えば、0~5歳の子どもたちを各学年3人ずつ18人預かる小規模認可保育所や、3歳~5歳までの子どもを12人預かる小規模認可保育所をつくれるようにするのです。

そうすることで、大規模な認可保育所がつくれないようなエリアにおいても全年齢対応の小規模認可保育所がつくれることとなり、3歳の壁を打破できるようになります。

⑥特区を活用し、居宅訪問型保育で複数の待機児童を預かれるように

現在、障害児とひとり親を中心に規定されている地域型保育における「居宅訪問型保育」事業を、待機児童になった場合にも利用可能にすることで、待機児童解消のツールを増やします。既に千代田区等では柔軟運用の実例があるのですが、国が煮え切らないので自治体の方でもなかなか踏み切れないでいます。これを、東京都が国家戦略特区(もしくは地方分権改革提案)等の制度を活用し、東京都が「うちはこういうやり方を認めたいです」と提案するのです。

また、現在は、居宅訪問型は基本的に1対1に限定されてしまっていますが、例えばAという家庭に訪問保育をするが、同じマンションのBという家庭の子どもも預かれる、という複数子対応も可能にすれば、費用対効果は向上します。

海外では、こうした運用はイギリスのチャイルドマインダーやフランスの保育ママ等で行われていますが、日本においては家庭的保育事業(保育ママ)は保育者の自宅のみを想定しているため、上記のような柔軟運用はできません。

居宅訪問型用途を柔軟化し、かつ定員数も1~3人とすることで、より待機児童解消に貢献できる仕組みになります。

⑦騒音クレームへの対応機関の設置と防音補助の創設

地域住民の反対によって、保育所の建設が阻まれたり、激しいクレームによって閉園に追い込まれることが、東京都でも頻発しています。民間が認可・小規模認可保育所を開園しようとする際、クレーマーと事業者が直接相対することとなり、行政は原則不介入となります。保育所側としては、度重なるクレームや周辺住民とのコミュニケーションは負荷が大きく、それならば開園場所の変更/閉園した方が合理的、となります。

そこで「保育所等子ども施設保護条例」を制定し、以下を決めます。

・子どもの声が不快だとする住民は、保育所ではなく、広域自治体である東京都にある仲裁機関(東京都が開設する)に申し立てる

・仲裁機関が妥当だと判断した場合、クレーマー住民の家屋の窓を二重化する等の補助を行うことができる

ドイツでは既に「子ども施設の騒音への特権付与法」が成立しており、保育所及び子どもたちが保護されていますので、東京都も保育園や子ども達を守る体制を整えることで、保育園建設のハードルを押し下げていくべきでしょう。

⑧活用可能都有地の見える化:都有地バンク

現在どの程度の都有地があり、そのうちのどの程度が民間に貸与でき、そしてそれらのうちどの程度が保育所として活用できるのか。こうしたデータはつまびらやかにはなっていません。

(一応、http://www.zaimu.metro.tokyo.jp/zaisan/kouyuu/index.htm にありますが、見づらいですし、どれを民間が利用提案して良いのか分かりません)

こうした活用可能な都有地のリストがあれば、民間側で様々な提案を行っていくことができます。ほとんどお金はかからず、むしろ貸与や払い下げによって都は収入を得られるので、やらない理由はないと思います。

というわけで、東京都および新知事が待機児童問題にできることはある、ということをお分かりになって頂けたかと思います。

ぜひ、都知事選が盛り上がって、新都知事がしっかりとした待機児童政策を行い、待機児童日本一の恥ずべき状況から脱却してくれることを、心から願っています。


編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のFacebook 20167月17日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎氏のFacebookをご覧ください。

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