共和党大会は波乱の幕開けを経て19日は無事に消化しましたが、20日に新たなサプライズが直撃しました。
立役者は、テッド・クルーズ米上院議員です。予備選に出馬し5州(アイオワ、アラスカ、オクラホマ、テキサス、カンザス、メイン、アイダホ、ユタ、ウィスコンシン)を制した後、5月3日に撤退(英語ではあくまでsuspendであってwithdrawではない)を発表した、あの方です。
党大会の演説者として壇上に立ったクルーズ候補、19日に共和党の米大統領候補として正式指名されたドナルド・トランプ氏への支持を拒否したのです。演説で「良心に従って投票すべき」と発言し、トランプ支持者が集まる会場は大ブーイングで応じました。良心に従って、という言葉が“良心条項”を指しているのは言うまでもありません。クルーズ候補は共和党全国委員会(RNC)の規定委員会がルール変更を検討する以前、ひっそりと保守派との会合を持ったとも言われており、反トランプの立場をいかに表明するか策を練っていたと考えられます。
トランプ氏本人は拍手で対応、ツイッターでも「No Big Deal!」と余裕綽々。
(出所:CNBC)
クルーズ氏が大勢をかく乱するのは常套手段であり、2013年の政府機関閉鎖直前には医療保険制度改革案(通称オバマケア)への反対の意味を込めて、フィリバスター(議事妨害)という強硬手段を行使し協議の時間を奪ったため共和党の支持率低下を招きました。そもそも大学時代から「creepy Cruz(不気味なクルーズ)」との称号を与えられるほど、気味が悪い存在だということですよね。リンゼー・グラム米上院議員の有名なセリフ「トランプかクルーズを選べというのは、銃殺か毒殺を選べと言われるようなものだ」が思い出されます。イメージでは、クルーズ議員が後者でしょう。
完全にお株を奪われたのは、副大統領候補に指名されたインディアナ州のマイク・ペンス知事。せっかく表舞台に登場しトランプ候補を盛り立てたものの、クルーズ議員の影に隠れてしまいました。
具体的には「決して諦めたり振り返ったりすることのないファイターであり、勝者である人物を正式候補に指名した」と言及。実行力があり、真の意味で記事になるような業績溢れる人物と評価し、「政治的公正をめぐる数多くの新たなルールを前に慎重とならず自身の言葉を話し、確固たる主体性を持ったアメリカ市民そのものだ。自由と勇気の根源以外に、彼のような独立した精神を見つけられるだろうか」と手放しで評価していました。一匹狼だったトランプ候補に、今では共和党というバックアップがついたとも高らかに宣言しています。「トランプ候補と言えばその強烈な性格と派手なスタイルとカリスマ性で知られる人物だが、バランスが取れる候補者を探していたのだろう」と笑いを取ることも忘れません。
ペンス州知事がスピーチを行う日に、反乱分子となり得るクルーズ議員をなぜぶつけてきたのか。クルーズ議員のような人物でも受け入れる「度量の大きい男」というイメージを与えたかったと考えられます。
そもそも、トランプ候補は自身のリアリティ・ショー「アプレンティス」での有名なセリフ「お前はクビだ!(you’re fired!)」に反し、失敗した人物を即刻解雇するような上司ではありません。3月に女性記者への暴行が問題になったコーリー・ルワンドウスキ氏も、選挙ストラテジストの重鎮であるポール・マナフォート氏の参入後の6月に解任しました。メラニア夫人のスピーチ盗作問題でも、公に謝罪したスピーチライターを解雇せず懐の広さを見せつけたものです。こうなると、盗作問題すらまるでトランプ氏自身のイメージアップ戦略にまで見えてくるから不思議です。
(カバー写真:VOX)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年7月21日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。