頼れる医療、頼れない医療

少し前の日経ビジネスに「社会保障非常事態宣言」という生々しいタイトルの特集が組まれています。税の収入と支出のバランスの悪さが日本の財政をいじめていますが、その中でも増大する社会保障費に歯止めが利かない状態になっています。どうしたら改善するのでしょうか?

日本では何処かちょっと悪くなるだけで直ぐに「医者に行け」で、行けば行ったで山のように薬を貰ってきます。患者は医者にかかった際に「良くない」と診断されるのを期待しているがごとくで、「センセー、本当にどこも悪くないんですか?」と医者に突っかかっていく輩もいらっしゃるのではないでしょうか?

「病は気から」と言います。元気だと思っていれば元気でいられることも多いと聞きます。「癌になる」と願をかけると癌になるのではないかと思うほどで、精神と肉体的健康を維持すると案外、長持ちするような気がいたします。

ここカナダ。医療費は全部無料です。怪我でも出産でも無料ですからファミリードクターにしろ、専門医にしろ、診てもらって処方箋を貰ったら受付にもよらず会計もなく、はいさようなら、でドラッグストアで薬を調合してもらいます。但し、サービスは実に悪いといえます。ファミリードクターで収まらない場合には専門医に廻されますが、分野にもよりますが、異様に長い待ち時間が普通であります。専門医の受付嬢から来月の○日はどうでしょう、という電話はごく普通で、初めのころは焦りましたが今ではそんなもの、と鷹揚に構えています。

但し、専門医にかかるのが遅すぎて手遅れになったとか、待ち切れずに日本で診察してもらったら大変な状態だったという話も小耳にはさみますので自己管理の中でうまく判断しなくてはいけません。最悪は救急で診察してもらうしかなく、そのあたりは要領のよさが要求されるとも言えます。

ではカナダは医療費支出が少ないかといえば2191億ドル(17兆5000億円)で国民一人あたりは約50万円であります。日本は約40兆円で一人あたりは31万円ですから日本の医療費がむちゃくちゃに高いわけではないのです。平均寿命で見ても日本は83.7歳に対してカナダは82.2歳。ランクではカナダは12位であり、長寿国といってよいでしょう。つまり、乱暴な言い方かもしれませんが、日本のように医者が手軽にあるところとカナダのように病気になると不都合な国の差異はさほどないのかもしれません。

世界比較でみれば日本の医療費が突出しているわけではなく、財政赤字の最大のネックと言われる社会保障費の増大の問題は国家規模に対して歳入の規模が少なすぎるということではないかと思います。

私のように「頼れない医療の国家」にいるとぎりぎりまで我慢をするのですが、いざ専門医にかかればかなり高いレベルのサービスを施してくれます。但し、かつて二度ほど手術をしましたが両方とも日帰りであります。麻酔から覚めたら看護婦さんから「はい帰っていいわよ」と言われ、麻酔でぼーっとした頭の中、よたよたと帰路につくわけです。救急でもせいぜい数時間ベッドに寝かせてもらい、鎮痛剤なりの対応をしてもらい、その間にその患者が更なる処置を必要とするか判断し、そうでない場合には「家でゆっくり休んでね、バイバイ」と言われるのです。

まさに人間の自然治癒能力を試されているようなところですが、おかげさまで特に悪いところはなさそうです。

日経ビジネスに掲載されていた衝撃は「病院が消えても死亡率は変わらず」の記事であります。具体的に北海道の夕張市のケースであります。財政再建団体である同市から病院が消えたにもかかわらず、高齢者の医療費は下がったその理由は「予防医療と在宅医療への取り組み」であります。一方、一人当たりの入院治療費が高かったのが高知県で20万円以上と突出、最低の神奈川県の2倍以上であります。

これを分析すると単位当たりのベット数が多い県ほど医療費がかさむようになっています。そしてその多くは地方で上位十都道府県は山口を除き全部四国、九州、北海道であります。

頼れる医療がある日本は頼りすぎだともいえるのでしょう。なければ行きようがない、行けないから健康管理に気をつけるというのは小学生の子供が学校で学んでくるレベルです。

昔から思う日本の特徴は自分の専門以外は専門家に全部任せ、自分でどうにかしようとしない点ではないでしょうか?極端な話、医者は俺の体を健康にする義務があるぐらいの方もいらっしゃると思います。まずはその発想を転換し、医者に通わなくてはいけない状態になった自分に反省するぐらいの気持ちが必要です。

日本はおいしいものも多いのですが、さしやトロのように脂分の多いものを好んで食べます。それもあり、暴飲暴食しやすいかもしれません。カナダにいると大したものがないのでおいしいものを忘れてしまい、日本に行くと回転ずしでもおいしく思えてしまう自分に恥ずかしいと思いますが、逆に質素な食事が健康を維持させる秘訣なのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、みられる日本人 7月25日付より